今日も俺たちは生きている
腕の中に収まる小早の身体は、恐ろしいほどに軽かった。
小早が神力切れを起こして意識を失う姿なんて、俺は今まで一度だって見たことがなかった。
どんなに過酷を極めた士官学校の地獄のような訓練でも、立川の惨劇でも、あいつは一度として神力を枯渇させたことなどなかったのだ。それほどまでに自身の神力を極限まで制御し、無駄を削ぎ落として戦ってきたあいつが……今、完全に乾ききって泥のように眠っている。
視線を巡らせると、小早を庇って共に戦ってくれた相原軍曹もまた神力を使い果たして倒れ込み、駆けつけた中山教官に抱えられていた。
……かくいう俺自身も、全身の神力を絞り尽くしたせいで指一本動かすのも億劫だ。自力で基地へ引き返すだけで精一杯の、無防備な極限状態だった。
「関っ!!」
その時、中山教官の凄惨な叫びが雨を切り裂いた。
「中山教官……! 俺……っ!」
ハッと顔を上げた俺の視界の中で、信じがたい光景が広がっていた。
先ほど三人で核を穿ち、確かに撃破したはずのあの巨大な化け物が——肉塊を蠢かせ、不気味な勢いで再構成(再生)を始めていたのだ。
くっそ……! 神力が……もう残ってねぇ……っ!!
小早を庇うように抱きかかえ、歯が砕けるほど噛み締める。
だが、どれほど心の中で叫んでも、枯渇した身体からは一滴の神力すら湧いてこない。万事休すか——そう覚悟した、次の瞬間だった。
再生を果たした巨躯は、俺たちに目もくれず、そのまま漆黒の空へと巨体を翻して遥か遠くへ飛翔していった。
それだけではない。周りを取り囲んでいた数知れぬ敵の群れも、まるで何かに導かれるかのように、次々と巨獣の後を追ってその場から立ち去っていく。
「……なんで……?」
茫然と立ち尽くす俺の傍らで、小早と相原軍曹をその腕に庇った中山教官が、雨を見上げながら低く呟いた。
「……わからない。……だが、終わったんだな」
不気味な沈黙だけが残された雨の戦場で、俺は腕の中の冷え切った小早を、二度と離さないようにぎゅっと強く抱きしめた。
「……安宅。今日も……俺たちは生きているよ」
濡れた頬を伝うのが雨なのか涙なのかも分からないまま、俺は遠い空へ向かって、静かにそう呟いた。




