小早の居場所
雨が激しさを増す戦場の中で、関と小早の二人が背中を合わせ、滑らかに空を舞う姿が見えた。
……あの二人が、また一緒に舞える日が……こんなに早く来るとはな。
本来なら、あそこには安宅も並んでいたはずだった。士官学校時代、あの三人で組んだ時の相性は完璧だった。だからこそ……今でも「あの日、安宅が生きていれば」という痛切な思いが胸をよぎってしまう。
立川のあの事件で、俺の直属の教え子は小早を残して全員が命を落とした。
俺自身、何度自分を責め、いっそ死んでしまいたいと絶望したか分からない。
だが……あの事故の直後、生き残った小早も関も精神的にボロボロで、今にも消えてしまいそうだったあの時。普段は感情を表に出さないあの桜木が、憔悴しきった顔で俺に吐露したのだ。
『……関の奴、辛いって分かってたのに……なのに俺は、キツく当たってしまった。……中山、関は……関まであいつらの後を追ってしまうのか……!?』
溢れる悔恨に耐えかね、大声を上げて子供のように泣きじゃくる桜木を、俺はただ強く抱きしめることしかできなかった。
あの瞬間、俺は心を殺して決意したのだ。俺が、俺たち教官がしっかりしなければならない。生き残ってくれた、この子どもたちのために、と。
あの日からの日々は地獄だった。
遺族への誠心誠意の対応、トラウマに苦しむ生存生徒へのケア、世間からの容赦ないバッシングへの盾となり、更には死んだ同僚教官たちの膨大な職務まで一人で背負い込んだ。
恐怖から学校を去る生徒や教官、軍から去る者、果ては後追い自殺を図る者まで現れ、誰もが限界を超えた過酷な状況の中でボロボロになっていた。
それから何年かが経ち——今、こうして二人は単なる同学年のライバルとしてではなく、かけがえのない仲間として背中を預け合って戦っている。
あぁ……こんな日が、本当に来るなんてな……。
他の立川基地のメンバーだってそうだ。一人ひとりが過酷な痛みを抱えながら、よくぞここまで踏みとどまり、強くなってくれた。元教え子であるあいつらに良い経験を積ませ、何が何でも全員無事に立川へ連れて帰る。それが今の俺の使命だ。
ふと見ると、小早が相原軍曹へ笑顔で声をかけていた。
相原軍曹……小早が心から信頼している大切な先輩だ。あいつも絶対に守り抜かなければならない。
小早は、昔からずっと「居場所」というものに強く固執していた。
なぜあいつがそこまで居場所に囚われるのか、俺にはその真意の全ては分からない。
……だが、安宅は全てを知っていたのだろう。そして、そんな小早の壊れそうな心を愛していたのだ。
周りから見て、安宅が小早に寄せている想いは明白だった。あいつが士官学校で首席という地位に固執し続けたのも、親友である関、そして大好きな小早と一緒に最高のチームを組み、あいつの居場所を守りたかったからに他ならない。
……もう絶対に、目の前で小早から居場所を奪わせたりはしない。
胸の中で強く誓ったその時、隣で戦況を見守っていた兵士が呟いた。
「小早中尉……すごいですね」
「小早は関との相性が抜群だからね。あれほどウマの合う二人なんて、そうはいないよ」
返事をした相原軍曹の横顔をふと見ると、彼女はどこか哀しげで、寂しそうな表情を浮かべていた。
「あの二人は立川の首席と二番手だ。強くて当然さ」
「そうなんですね……。小早の……居場所、ちゃんと見つかったんですね」
「明光隊も、きっとそんなチームになれるはずだ。小早があんなに大切に思っているんだから」
「……そうですね」
小さく呟き、視線を落とす相原軍曹。
……なぜ、そんな顔をするんだ……?
その寂しげな横顔に、俺は一抹の胸のざわめきを禁じ得なかった。




