安宅会ったら言いたいこと
繋いだ手の向こうで、小早がどこか吹っ切れたような、あまりにも静かな顔をしていた。
俺は知っている。人間がこういう顔をする時、その胸の内に何を抱いているのかを。
……“死んでもいい”って……思ってやがるな、小早
握りしめた手を離してしまえば、目の前の小さな身体は降りしきる雨に溶け、そのままどこか遠くへ消えてしまいそうだった。
……正直に言えば、俺だって似たような絶望を抱えて戦っている。この地獄のような戦場の中では、いつ死んでもおかしくないと投げ出しそうになる瞬間はある。
だが——俺には、まだ小早とともに生きて、やらなきゃいけないことがある。
もしもいつか命を全うし、あの世で安宅に再会できた時、あいつに胸を張って話したいことが山ほどあるのだ。「お前が早く死んじまったから、大変だったんだぞ」と、たくさんの出来事を笑って報告したいのだ。
あの日——立川の壊滅後、俺が血の滲むようなリハビリを続けていた頃、たまたま安宅のご両親とお会いする機会があった。
昔から安宅の家には何度も遊びに行き、家族同然にお世話になっていたから、ご両親もすぐに俺に気づいてくれた。だが、俺は申し訳なさと激しい罪悪感から、どうしても自分から声をかけることができなかった。あいつを守れなかった俺が、一体どんな顔をして会えばいいというのか。
けれど、ご両親は優しく俺に歩み寄り、穏やかな声で言っていた。
『あの子、関くんと王子さんと一緒に戦えることを、本当に喜んでいたんですよ』
『“あの二人には幸せになってほしい。二人を幸せにするのが、班長である俺の役目なんだ”って……息子の口から、何度も聞いていました』
……まだ士官学校の試験が終わったばかりの段階で、そんなことを恥ずかしげもなく言っていたなんて。どこまで自信家で、どこまでお節介な奴なんだ、あいつは。
だが——ここで小早を死なせてしまったら、あいつのあの大きな野望を叶えてやることができない。
繋いだ手にさらに強く力を込め、冷えた小早の手へ俺の体温のすべてを注ぎ込む。
胸の中で、遠い空にいる親友へ向かって静かに呟いた。
なあ、安宅……お前の愛した小早を、俺が借りるぞ。絶対に死なせねぇし、二人で生きて帰るからな。
雨を跳ね返すほどの激しい神力を全身に巡らせ、俺は小早の手を引いて、目の前に立ちはだかる巨大な怪物へと鋭い視線を向けた。




