仲間
雨は容赦なく降り続け、削られた身体からじわじわと体温を奪っていく。
冷たさに震えながらも、関と連携して1体ずつ確実に核を穿ち、順調に前線を押し戻していた……その時だった。
どす黒い雨雲を切り裂き、向こう側から今まで目にしたこともないような、圧倒的な巨大さを誇る“ヤツ”が現れた。
……なんだ、これ……っ!?
あまりの異様さに息が止まる。
「相原先輩! 本部に報告を!」
「わかった……! 明光隊相原です、前方左手より、とてつもなく巨大な個体が接近中!」
『了解した。即座に近隣の戦力を向かわせる。それまで明光隊で踏ん張ってくれ!』
「相原、了解しました……!」
冷や汗が雨とともに頬を伝う。普通の個体ですら三人掛かりでギリギリだというのに、目の前にそびえ立つのは馬鹿みたいに巨大な怪物だ。絶望が喉を締め付ける。
「小早、関!」
その時、雨を突き破って中山教官が駆けつけてくれた。
「教官……!」
「近くで立川のメンバーと交戦中だったが、あの巨大なのが見えたから援護に来た」
「ありがとうございます……! 今のところ、この人数で持ちこたえるしかありません」
「相原軍曹、ここでの指揮権をもらっていいか?」
「はい、お願いします!」
「よし。関中尉と王子中尉は攻撃手同士でペアを組め。士官学校で訓練した通りにやるんだ。立川の面々はいつも通り、相原軍曹の補佐は俺がやる。応援が来るまで耐え抜くぞ!」
教官の冷静な指示に、必死で頷く。
だが、見上げるほどの怪物は、通常の個体の三倍以上の質量を持っていた。幾多の修羅場をくぐってきた私でさえ、生理的な「恐怖」が背筋を駆け上がる。
ふと隣を見ると、相原先輩がこれまで見たこともないほど厳しい、死を覚悟したような顔で巨躯を見上げていた。
その横顔を見た瞬間、私のアタッチメントが外れたように、自然と一言が口から溢れ出ていた。
「相原先輩……無事に帰ったら、また訓練をお願いします」
相原先輩は目を見開き、一瞬だけ、昔大好きだったあの温かい笑顔を咲かせた。
「……小早。うん……っ!」
中学時代、剣道部で稽古をつけてもらった後、いつだって「よく頑張ったね! またやろうね!」と笑って頭を撫でてくれた先輩。
弱かった私を、誰よりも可愛がってくれた人。
……それなのに私は、部活を辞めるという最悪の形で、その優しさを裏切り、恩を仇で返した。
自分の不甲斐なさと申し訳なさに泣いた。決めたことだったはずなのに、あの時胸を裂かれたような激痛と流した涙は、今なお消えない不気味なシコリとなって私の心に残り続けている。
それを知り、寄り添ってくれたのが……安宅くんだった。
あの日——立川での惨劇が、冷たい悪寒となって脳裏を駆け抜ける。
……相原先輩。
みんなとまた戦えること。今度はあの頃と違って、少しでも役に立てることが……本当は嬉しかった。
だからこそ、菊名先輩に「みんなを無事に帰らせる」って誓ったんだよね。ずっと一緒に過ごしてきた彼女たちに、私みたいに「仲間の死」なんて酷いトラウマを背負わせたくないから。
元から仲間じゃなくなっていた私なら、例えここで犠牲になったっていい。
ここには中山教官も、関も、立川のみんながいる。私がここで身代わりになって死んでも、もう何の悔いもない。
やりきるしかない——そう死を覚悟した、その時だった。
「……小早。終わったら、話したいことがたくさんあるからな」
「関……?」
不意に呼びかけられ、振り向く。
「だから……その……っ」
関は視線を泳がせながら、迷うように私の右手へ自分の手を伸ばし、ぎゅっと強く握りしめてきた。
「関……?」
「……やるぞ」
雨に奪われて冷え切っていたはずの指先から、繋がれた手を伝って、関の熱い体温が怒涛のように流れ込んでくる。
身体の奥底から冷気が追い払われ、気づけば体温は元通り——いや、息が苦しくなるほど、いつにも増して熱くなっていた。
死を覚悟した暗闇の中に、関の強い体温だけが、痛いほど私の生命を繋ぎ止めていた。




