時が止まる
あの壊滅的な死闘から、三日が過ぎた。
九州を覆い尽くしていた“ヤツ”の集団は、まるで時が止まったかのようにその場で動きを止めている。
長距離の急襲や幾度の牽制攻撃を仕掛けてみても、一切の反応を見せない。まるで——全神力を使い果たして死骸と化したかのように。不気味な沈黙だけが、戦場に横たわっていた。
昨日、関が看病に入っていた際、一瞬だけ小早の意識が戻ったという報せを受けた。
酸素マスクは外されたものの、酷い貧血と全身の損傷、そして毒素の影響から、一日のうち二十時間は泥のように眠り続けているという。
そんな中、俺はたまたま小早が目を覚ましている時間帯に居合わせることができた。
「教官……! 中山教官……っ!」
ベッドの上で目を開けた小早は、幼子のように俺の名を嬉しそうに何度も連呼した。
その場に同席していた桜木は、あの日、ヤツの胎内に呑み込まれていく瞬間の記憶が小早から完全に抜け落ちていることを、静かな声で教えてくれた。暗闇へ引きずり込まれる間際、小早の視界には駆けつける桜木の姿が映っており、その存在に救われて息絶えずに済んだのだと。
……呑み込まれた後の地獄を覚えていないことだけが、あいつに残された唯一の救いなのかもしれない。
なお、関は小早の抜けた明光隊へ臨時で編入されることになった。
自力で小早を救出する際、関も体内の毒素を吸い込んでいたため丸一日ほど寝込んでいたが、今では動けるまでに回復している。完全回復まではあと少しといったところか。
一方、明光隊の三人(相原、片倉、南野)は、罪悪感と焦燥感に苛まれながら、暇さえあれば小早の病室付近に張り付いていた。
だが——小早は彼女たちとの面会を頑なに拒絶し続けている。
「……会いたくない、って……小早が……?」
相原たちが傷ついた顔で立ち尽くす姿が、脳裏をよぎる。
自分を庇って怪我を負わせたこと。役立たずの自分たちを庇い、また一人で死地へ赴かせたこと。
それを気にせずにいられる人間なんていないだろう。
気まずさと申し訳なさ、そしてこれ以上彼女たちを巻き込みたくないという強い贖罪の念が、小早に彼女たちを遠ざけさせているのだ。
俺から三人にその理由を伝えたが、もちろん納得などできるはずもなかった。自分たちのふがいなさで絆が切れてしまったことに、彼女たちはただ絶望していた。
静まり返った病室で、再び深い眠りについた教え子の冷たい手を見つめる。
ひとまず命は繋ぎ止めた。だが、肉体も、心も、この隊の絆も——負った傷はあまりにも深く、未だ暗闇の底に取り残されたままだった。




