関内
軍病院や周辺の病院から多数の応援が駆けつけ、立川士官学校を襲ったあの地獄のような喧騒はようやく静まり返った。俺自身の負傷も雑に応急処置を済まされたが、休む暇など与えられない。動ける教官たちは皆、積み上がった「死者」を確認し、死者名簿の作成という最も過酷な作業に駆り出されていた。
白い布をめくるたび、昨日まで俺を「教官」と呼んで慕っていた顔が現れる。
「お前……そっか。ここにいたのか」
冷たくなった班員の顔をそっと撫でる。頬には、恐怖に耐えた証である乾ききっていない涙の跡があった。怖かったよな。痛かったよな。一人で、どれほど辛かったことか。
「中山、気持ちはわかるが今は早く保護者の方に連絡するのが先だ。感情を殺せ」
同僚の、どこか感覚が麻痺したような声が響く。
「……すまない」
俺は教え子の遺体を置き、震える手で黙々と名簿を埋めていく。指先が鉄の匂いで汚れていく。
「空きはないか? ここに置くぞ!」
搬送の声に顔を上げ、俺は絶句した。
「こっちに……って、関内(弟)! 待て、彼はまだ動いているじゃないか! なぜ安置所に連れてきた!」
搬送していた隊員は、血の気の引いた顔で首を振った。
「……もう、間に合わないんだって。医者が、助かる見込みのある奴を優先しろって……」
「そんな馬鹿なことが……!」
「きょ……うか……ん」
掠れた、肺に血が混じった水音が喉の奥で鳴る。関内が、濁った瞳で俺を見上げていた。
「ごめんな。……本当に、すまない」
「僕……死ぬ……んですか……?」
答えられなかった。大丈夫だと言いたかった。だが、あいつの開いた胸から溢れる血と、絶望的な喘鳴が、その言葉を喉の奥に押し戻す。
「みんな……は……?」
「小早は生きてることを確認した。……だが、安宅含めた他の奴は……」
俺の沈黙からすべてを察したのか、関内は苦しげに、けれどどこか吹っ切れたような、痛々しい微笑を浮かべた。
「僕も……同じだ……ごめん……なさい……みんなを助けられなくて……先……に……死ぬ……な……ん……て……―――」
「おい! 関内! 待て、目を開けろ!」
ガクリと、あいつの首が垂れる。
さっきまで俺の言葉に応えていた。俺の服を掴んでいたその指先には、まだ確かな「生」の温もりが残っている。
まだこんなにも暖かい生徒を、冷え切った「死者名簿」に書き込むなんて、俺にはどうしてもできなかった。




