生徒たちは無事かな
土煙と噎せ返るような鉄の匂い、そしてあちこちから響く悲鳴。職員寮での仮眠から叩き起こされ、俺たちが駆けつけた立川士官学校は、すでに正視に耐えない死傷者の山と化していた
「桜木教官!」
誰かの叫び声に弾かれたように視線を向けると、そこには信じがたい光景があった。
常に俺の先を走り、誰よりも強かったはずの桜木が、力なく地面に横たわっていた。
「頭部と腹部に被弾! 中山教官、桜木教官を早く運んでください!」
救護に当たっていた同僚の叫びが耳を劈く。俺の目は、どろりと流れる鮮血に染まった桜木の姿から離れなかった。頭を強く打ち、腹部を深く撃ち抜かれたあいつは、装備も外れ、ピクリとも動かない。
「桜木……! おい、桜木!」
俺はあいつの元へ滑り込んだ。
俺の手袋は、一瞬であいつから溢れ出した熱い血に濡れる。脳震盪を起こしているのか、あいつの瞳は焦点が合わず、虚空を彷徨っていた。
「……なか……や……ま……」
掠れた、今にも消え入りそうな声。俺の顔を認識したのか、桜木の指先が微かに動いた。
「桜木、大丈夫だからな。今、止血する。しっかりしろ!」
「お前……生徒の……ところへ……行け……」
自分自身が死の淵に立たされているというのに、この馬鹿は、まだそんなことを口にするのか。
「ふざけるな! お前だって死にそうなんだぞ! いいから治療させろ!」
叫びながら、俺は必死に腹部の傷口を押さえた。手の隙間から溢れ出す命の奔流を、どうしても止めることができない。 俺が処置を施そうとするたびに、桜木は肺の奥から絞り出すような苦しげな声を漏らした。
「俺の……生徒たちは……無事……かな……」
それは、まるで見慣れない夢でも見ているような、うわ言のような呟きだった。
あの日、いつものように窓際の席で朝食を食べていた関内(兄)や、和気あいあいと元気な教え子たちの顔が脳裏をよぎる。
だが、俺は答えることができなかった。
校内の惨状を知っている俺には、「大丈夫だ」という嘘すら吐けなかった。
あいつの教え子たちのほとんどが、もう二度と返事をしてくれないことを、この時の俺はすでに悟っていたからだ。
「……待ってろ。絶対に、死なせはしない」
血まみれの手を震わせながら、俺はただ、薄れゆく相棒の意識を現世に繋ぎ止めることだけに意識を向けた。




