ムカデ人間
九州各地や他地域からの決死の支援が功を奏し、敵の苛烈な侵攻はかろうじて食い止められた。
戦況は泥沼の膠着状態へと持ち込まれ、束の間の一時休戦が訪れていた。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
集中治療室のベッドに横たわる小早の体には、何本もの人工呼吸用チューブや点滴の管が複雑に絡みつき、まるで不気味なムカデのように這い回っていた。
顔に装着された酸素マスクは白く曇り、機械が刻む規則的な心拍音だけが室内に虚しく響いている。
極度の貧血に激しい脱水症状、骨折した腕、さらにはあの化け物の体内で高濃度の毒ガスを吸引したのだ。意識が戻るはずもなかった。
「……命に別状はありません。ですが……」
担当医は暗い顔で頭を振っていた。
「……本来なら、とっくに命を落としていてもおかしくない状態です。一体どれだけの無理を重ねたら、ここまで体を破壊できるというのか……」
医師の言葉が、胸に鉛のように重く突き刺さる。
面会が許可されると、立川基地から駆けつけていた士官学校時代の同期や仲間たちが、次々と病室を訪れてきた。
だが、彼らは誰もがベッドの上の凄惨な小早の姿を目にした瞬間、息を呑み、絶句した。
「……嘘だろ……あの『王子』が……こんな……」
「……あの時、立川で誰よりも強かった王子が……」
彼らが零す絞り出すような呟きには、あまりの衝撃と痛ましさが滲んでいた。
あの日の惨劇を生き延び、誰よりも気高く、誰よりも強くあり続けようとした教え子が、今や見る影もなく打ち砕かれて横たわっている。
俺はベッドの傍らに腰を下ろし、管に繋がれた小早の冷たい手をそっと包み込んだ。
「……小早。もういい……もう十分頑張ったんだ……」
自分を責め続け、命を投げ出すように空へ飛んでいった教え子の顔を見つめながら、俺は押し寄せる悔しさと愛おしさに静かに目を閉じた。




