お前を助ける
飲み込まれた直後、視界を埋め尽くしたのは異様で狂った空間だった。
弾力のある粘ついた床、そして不気味なほど物音一つしない沈黙。
体内の分解液と毒ガスに意識を奪われないよう、咄嗟に衣類の一部を破って口元をきつく覆う。呼吸を極力浅くし、無駄な神力の消費を抑えた。
だが、上下も遠近感も曖昧な暗闇の中では、どれだけ歩いても進んでいるのかすら分からない。
「小早っ……! 小早ぁっっ——!!」
声を限りに叫び続けた、その時だった。
外からの激しい攻撃によって本体が大きく傾き、俺の身体は不気味な肉壁の坂を転げ落ちていった。
転がり落ちた先——その空間の奥に、小早の小さな姿が見えた。
「小早っ……!!」
駆け寄ろうとするが、肉厚な障壁に阻まれる。刃を振るって間仕切りを斬り破ると、ヤツは痛みに悶えるように体内へさらに濃密で刺すような毒ガスを噴出させてきた。
「くっ……うぁっ……!?」
激しい眩暈と指先の痺れが全身を襲う。これが、小早の意識を奪った毒か……!
意識が途切れそうになるのを噛みちぎった唇の激痛で繋ぎ止め、俺は必死で障壁を破って小早の元へ躍り出た。
そこにいた小早は、おぞましい無数の触手によって全身をぎちぎちに拘束されていた。
触手は脈動しながら、小早の身体から神力を凄まじい勢いで吸い上げている。
……神力を吸って自分の動力にしてやがったのか……!!
小早の神力の多さを吸い取ってきたわけだ、そりゃ外からの攻撃に傷一つつけられるはずもない。
「小早から……離れろぉぉっ!!」
怒りに任せて触手を斬り払うが、切断面から即座に新しい触手が再生し、再び小早へ群がろうとする。拉致があかない——そう焦った瞬間、小早の指先が何かを指した。小早の足下に生々しく鼓動する巨大な肉塊が目に入った。
下か……ここが弱点か……っ!!
小早が教えてくれた、この化け物の「心臓部」。
ここを撃ち抜かなければ、小早も俺も生きてここを出られない。
「これで……終わりだぁぁぁぁっっ——!!!!」
毒と痺れに蝕まれた体に鞭打ち、絞り出せる限りの全神力を右腕の刃へと収束させる。そのまま、生々しく脈動する弱点へ向けて、渾身の一撃を突き刺した。
ドォォォォンっ——!!
凄まじい光と爆風が体内を内側から引き裂く。
視界を覆っていた不気味な肉壁が崩れ去り、一気に激しい外気と太陽の光が流れ込んできた。撃破に成功したのだ。
空中で自由落下を始めた小早の身体を、俺は死に物狂いで腕の中に受け止めた。
「関っ!! 小早っ!!」
崩壊する化け物の残骸を破り、中山教官が涙目になりながら凄まじい速度で駆け寄ってくる。
腕の中の小早は、血の気が引いて土気色の顔をし、ぐったりと力なく垂れ下がっていた。
呼びかけても反応はない。だが——胸の奥で、かすかに、確かに脈打つ心臓の鼓動を感じた。
生きてる……よかった……生きててくれた……っ!!
「中山教官! 小早をお願いしますっ!!」
溢れ出る涙を拭う間もなく、俺は叫びながら小早の身体を中山教官の腕の中へと託した。
まだ周りには打ち漏らされた敵の群れが蠢いている。小早が命がけで守ったこの空を、今度は俺たちが死守しなければならない。
「小早……絶対、また話そうな……っ!!」
愛しい背中に最後の叫びを送り、俺は残された全神力を燃やし、再び前線の敵陣へと飛び込んでいった。




