怒りと恐怖
小早を飲み込んだ化け物へ向かって夢中で神力を叩き込むが、分厚い漆黒の装甲に弾かれ、逆に引きずり込まれそうになる。
「くっそ……っ!! どこだ……弱点はどこなんだよっ!!」
頭に血が上り、正気を失いかけたその時、背後から急接近してきた影が俺の肩を強く掴んだ。
「関、落ち着け!」
「桜木教官……っ! 弱点が……弱点が見つからないんですっ!」
必死で訴える俺を制するように、桜木教官は短く「分かったから」と告げると、通信越しに並走する中山教官へ信じられない言葉を投げかけた。
「中山、……もう一回、吸い込まれていいか?」
「……何言ってんだ、この人……!?」
唐突な言葉に俺が耳を疑う中、中山教官も苦々しい声で「お前まで馬鹿なことを言うな、落ち着け!」と怒鳴り返した。
桜木教官は鋭い眼光を化け物に向けたまま、低く冷ややかな声で言葉を継いだ。
「関、よく聞け。こいつは……昔、俺が戦った個体と同種かもしれない」
「……え?」
「なら、心臓部は真ん中の奥深くだ。……外からの攻撃は一切届かない。一度呑み込まれなきゃ、内部からの攻撃は不可能だ」
なんだそれ……そんな歪な化け物があるかよ。
「じゃあ……小早は……っ! 小早はその弱点に気づいてないんですか!?」
「王子は多分、中で意識を失っている。……俺も昔こいつに呑み込まれた時、体内の毒と圧力で正気を失いかけた。中山に引っ張り出されるまでは、恐怖で自決しようとしたくらいだ」
かつて教官すら死の淵まで追い詰め、自決を覚悟させたという悪夢の記憶。
そんな地獄の中に、今、怪我でボロボロになった小早がたった一人で閉じ込められているのだ。
毒……失血……それにあの暗闇……っ!!
小早の精神が限界を迎えているのは分かっていた。あいつがどれだけ安宅の死を抱え込み、自分を責め続けてきたかも。そんな場所で一人にさせたら、あいつは今度こそ二度と戻ってこなくなる。
「——教官! 俺が行きます!」




