届かなくて悔しい
攻撃を加えれば加えるほど、ヤツは黒い体躯を不気味に肥大化させ、凶暴性を増していく。
狂ったように刃を打ち込み続けるが、どこにも弱点が見当たらない。
普通なら必死で隠そうとするはずの「コア」が、どこにも存在しないのだ。
「うぐっ……!?」
速度の落ちた隙を突かれ、追撃を許してしまった。
片足を触手で強く捕らえられ、空中で激しくバランスを崩す。抵抗する間もなく視界が反転し、私は暗黒の内部へと一気に引きずり込まれていった。
……次に目を覚ました時、私はどこか不気味に蠢く、柔らかい組織の上で横たわっていた。
あぁ……私は飲み込まれて、死ぬんだ。
身体を維持していた神力は完全に途切れ、骨折した左腕の激痛と、絶え間ない強烈な眠気が容赦なく襲いかかってくる。
思考は朦朧とし、感覚が徐々に麻痺していく。死ぬって……こういうことなのだろうか。
そう諦めかけた矢先、急速に息苦しさが胸を締め付け始めた。
そして、じわじわと肌を焼くような酷い熱気。
鼻腔を突くこの独特で刺すような臭いは……毒ガスか。体内の分解液と毒素が混ざり合い、私の神経を侵しているのだ。全身が痺れ、指一本動かすことすらできなくなっていく。
その時——ヤツの体が、外からの激しい衝撃によって大きく揺れ動いた。
何……っ!? 外で誰かが……!?
激しい揺れに伴い、私の体も粘つく床の上を転がされる。
転がり落ちた先、視界のすぐ下で——ドク、ドクと不気味に波打つ巨大な脈動が見えた。
これ……は……!?
いつも外側の分厚い装甲越しに必死で探していた、ヤツの「心臓部」とも言える弱点。内側から見るそれは、驚くほど人間の心臓に似た形で、生々しく動いていた。
ここを刺せば……ここを攻撃できれば、絶対に倒せる——!
けれど、毒と失血に侵された身体は神力を発動することすら許さない。それどころか、体を起こすことすらできなかった。
あと少しなのに。目と鼻の先に命の核があるのに……手の届かない絶望。
焦燥感と悔しさに胸を抉られながら、私の意識は暗闇の底へと遠のいていった。
——夢、なのだろうか。
暗闇の向こうから、あの日失ったはずの安宅くんが姿を現した。
安宅くんは何も言わず、泣きそうな顔の私を、温かく優しく抱きしめてくれた。
安宅くんっ……!!
逢いたかった。ずっと、ずっと逢いたかった。
叫び出したいのに、声が出ない。
安宅くんも何も喋らない。ただ、慈しむように私を強く抱きしめ続けてくれている。
全身の痛みが消え、胸の奥が満たされていく……不思議で、愛おしい感覚だった。
このまま、安宅くんと一緒にいられたら——そう願った、その瞬間だった。
突然、視界全体が裂けるような激しい眩しさに包まれ、冷たい外気が流れ込んできた。
目の前にいた安宅くんの身体が、光の粒子となってゆっくりと透けていく。
だめっ……! 消えないで……安宅くんっ……!!
消えゆく幻影を必死で抱きしめようと、動かない両腕をかき集める。だが、愛しい面影は指の隙間をすり抜け、どこまでも遠くへ消えていく。
安宅くんっ——!!!!
私を呼ぶ誰かの悲鳴のような叫び声と、眩しい光の激流の中で、私は引き裂かれるような想いで目を醒ました。




