夕焼け
民兵の援護手たちは、全員が負傷した。
幸いにも自力で飛行を維持できているようだったため、私は彼らに即座に戦線離脱と基地への帰還を命じた。
だが、この「ヤツ」をここで喰い止めておかなければならない。私がマークを引き剥がせば、他の小隊が挟み撃ちに遭い、壊滅する。
私はたった一人、激しい攻撃を紙一重で交わしながら、ヤツの注意をこちらに引きつけ続けた。
身体が鉛のように重いのに、なぜか思考を置き去りにして動く。酷く歪で変な感覚だった。
頭部の傷は急ごしらえの縫合で血が止まっているし、全身の痛みも薄い神力の膜が麻痺させてくれている。神力もまだ底をついていない。……だから、まだ大丈夫だ。
その時、少し離れた空域から、懐かしい声が響いた。
桜木教官の声だ……。
あぁ、立川から……来てくれたんだ……。
だが、ヤツの攻撃は衰えるどころか勢いを増し、想定外の軌道でこちらを追い詰めてくる。
自分自身の飛行速度が急速に落ちているのが分かった。神力の枯渇ではない。肉体そのものが、とっくに限界を超えて悲鳴を上げているのだ。
それでも、動きを止めれば弾を食らって死ぬ。
……あれ?
死ぬ……?
死ぬって……なんだっけ……?
思考の脈絡が唐突に途切れ、すっと世界から色彩が抜け落ちていく。
自分が今、なぜここで空を飛んでいるのか、何のために戦っているのかさえ分からなくなる。胸の奥から、乾いた笑いが込み上げてきた。
ははっ……。
ふと視線をやると、煙る雲の隙間から夕暮れの赤い光が差し込んでいた。日がゆっくりと沈んでいく。
日没は、私たちにとって圧倒的な不利を意味していた。
士官学校出身者なら夜間戦闘の訓練も受けている。だが、暗闇の中ではヤツの微細な初動や攻撃の予兆が見極めにくくなるのは避けられない。
沈んでいく夕日を横目で見つめる。
その赤は恐ろしいほどに綺麗で、いつの間にかあれほど酷かった雨が止み、空が晴れていたことに気づく。
現実と虚構が混ざり合う、このイレギュラーで狂った空間が、もうよく分からない。
けれど——たった一つだけ、はっきりと分かることがある。
こいつを、今、ここで倒さなければならないということ。
「あぁぁぁぁぁぁっっ——!!!!」
思考を捨て、咆哮とともにヤツへと激しく突撃を開始した。
皮膚を焼く多少の被弾など、もう気にならない。
残された全神力を、自らの命ごと絞り出すような勢いで刃へと打ち込んでいく。
絶対に——絶対に、ここで倒す!!!!
夕映えの空に命の最後の輝きを撒き散らしながら、私はただ一頭の手負いの獣となって、破滅の斬撃を繰り出し続けた。




