二、いつもより良い生活?
しばらくの無言の後、誰かの空腹の腹の音のおかげで食事となった。
……私じゃない、好きなだけ食べていいって言われるのは嬉しいけど!
保存食を丸齧りの、いつもと比べるとかなり豪華な食事。
部屋の隅には、大人が5人は一週間食べていけるだけの非常食が積まれている。
ただ心配なのが飲み水だといえば、他の部屋に置いてあると言われて驚いた。
奥に行くほど埃まみれで湿気っぽい。
どうしてこの部屋にいるのか、聞かなくともわかる気がする。
脱出につながりそうな上への扉や外へとつながりそうな穴はなく、手洗い場と水釜のある部屋、謎の布切れが山になる程積まれている部屋があるだけで、脱出につながりそうなものは無い。
隠れるにしても物は少ないし、生き埋めの心配を考えれば最初の部屋にいた方が良さそう。
「やっぱり地下ですか」
「おゥ、俺ぁここから投げ入れられたぜ。嬢ちゃんは丁寧に置かれたが、まァここへ来るまでは雑だったようだがな。……ひひっ」
運び込まれた部屋の天井には、切り抜かれた床板のようなものが見える。
外から開けられるだけしか動かず、梯子のようなものも上げられてしまったらしい。
とはいえ、誘拐という割にはそれなりに良い扱いなことが不思議だった。
真っ当な食事と水、汚くはない生活空間、澱まない空気。
これだけでも十分素晴らしい環境だと言えるのに、ネグ自身は別として私には医者が当てられている。
そう思って首を傾げていると、突然にひゃにひゃと奇妙な笑い声を上げ始めたネグ。
驚きと不信感を込めて冷たい目線を向ければ、そのことに気がついて慌てて口を閉じて首を横に振られた。
「悪ィ、ただの思い出し笑いダ。オメェさんを連れてきた奴が、メチャクチャに慌てて顔色悪くしてたのが面白かったのさァ。ありゃぁいい気味だったナと」
ぐったりした私を運んだ男は、ネグに対して傲慢だった態度を一変させ、真っ青な顔でどうにかしてくれとお願いしてきたらしい。
その姿が可笑しく、吹き出しそうになるのを必死に堪えたのだと言いながら、再び思い出し笑いをする。
「俺ぁ基本的に無害だが、誰かに害を加えたやつはひたすら苦しめばいいっテな考えでナ」
面倒を見てくれたお礼を改めて言った。
*
「ネグさんは、いつからここに?」
「ここへはオメェさんと同じくれェだ。ンー、今は夕方くれェか?結構眠ってたが、無事に目覚めてくれて一安心だァ」
目覚める前に誘拐犯がきたきり、ここへは誰も来ていないどころか外の人の動きもないらしい。
ほぼ半日眠っていた衝撃と、目が覚めたことに心から安堵されて複雑な感情を覚える。
「ただ、ここのヤツに無理やり連れてこられたってンなら、オメェさんより前だナ。そん時の扱いと言ったら酷いもんだ。突然家に押し入られて縛られて、気がついたら手足拘束で動けねェ」
「ちゃんと人攫いですね……」
「昨日の夕方くれぇかァ?に捕まって、飯もねェ自由もねェ。おまけにここに落とされるまでは目隠しもあったから場所もわからねェ。オメェさんのおかげで自由になったンだ。今ならチット面倒なケガをしても直してやんゼ?」
まるで何気ないことを言うかのように軽く言われた内容に驚く。
けれど、確かにネグの手首には荒い紐で縛られた跡らしき傷が残っていた。
治療しないのかと聞けば、気にするなとばかりに手をぶらぶらと振って見せられる。
「そぉいや、よほどオメェさんを生かしたかったみてェだが、狙われた心当たりはあんのか?」
「いえ……」
心当たりも何も、子どもというだけで攫われる場所にいた。
……思い当たる節がありすぎる、と内心冷や汗を流しつつ当たり障りのない答えを返す。
その際、一瞬だけ瞳の奥に光が瞬いて見えた気がしたけれど、見間違えかもしれないほど僅かで。
開きかけた口は、ネグが別の話を始めたことですっかり言葉を失った。
その後も、ネグはずっと何かしらの話を一人で続けた。
私が不安がって騒ぐのを防ぐためか、単に喋りたかったからなのかは分からない。
確か、人探しの人相書きが実物より上手に描きすぎて見つからないことがあって……という話を最後に眠気に負けて意識が落ちた。
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