4、契約と魔法
もともと、外壁の外にいる子どもたちのほとんどは『魔法』が使えなかった。
その理由が、正しい『信仰の契約』をしていないからだと気づいたのは、ネスがここへ来てすぐのこと。
たった数日のことから既に危機感から焦燥感へと変わった。
カロズやその他数名の大人が身を削って子どもを庇護し、その子どものほとんどが彼を信用しているのだと確信をえた上で、ネスは己が身を隠していることも忘れてカロズを問いただした。
「おっちゃん、どうしてみんな魔法を使わないの」
「あ?」
「生活に使える些細な魔法は、上位神の管轄だから契約すれば使えるはずだよね?」
「??」
生まれてすぐに受けるのは、最上位神からの誕生の祝福。
五歳以降は、己で決めた信仰を捧げるものとの契約を結び、恩恵としてそのものの魔法を扱えるようになる。
その契約を介して、多少は向き不向きはあれど他の神の魔法も使えるようになる。
そういう決まりだった。
メート国が主神とする『メクラト』は、巡りと自立を司る神。
格、として言い表すのはあまり良くはないけれど、中位の神の一柱。
司るものからして、おそらく風魔法と自己強化系の恩恵がある。
治癒魔法や付与魔法、状態異常系の魔法などは他の神の恩恵の一端で……とまで言いかけたネスだったが、ふと我に返って思った。
普通は、一体どこまでが常識なのかと。
「……どこの国の人でも、契約があれば少しの水や火種を生み出すくらいの魔法は使えるでしょ?この国の人だけはそれすらできないっておかしくない?」
「他の国がどうだかはしらねぇ。そういうもんなんじゃねぇのか」
「っ、魔法は奇跡だけど、恩恵なんだよ。どんなに頑張っても何の魔法も使えないことはありえないし、……信仰は生まれ持つものじゃないのに、どうして魔法は生まれ持つものだと思われているの?」
「……」
「どうして魔法が使えない人が信仰不足だってなるのかわからないけど、絶対におかしい」
魔法が使えない人の子どもは魔法を使えない、そう最初に囁いたのは誰だったのか。
少なくとも契約も魔法も、十分とはいかないけれど扱えないことはないはずだと訴えた。
徐々に顔色が悪くなっていったカロズは、深く何かを考え込むように口を閉ざし、やがて完全に目を伏せた。
言いたいことを言い終え、考え込むカロズをよそに店を出たネス。
落ち着いたかと思われた怒りも、魔法のない生活を見て思わずぶり返す。
結果として、ネスはその日から子どもたちと積極的に関わるようになった。
何をしたかといえば、ちょっとしたお金を稼ぐ方法と身を守る方法を教えただけ。
あくまでも個人的な理由で行われた行為だったが、正しい恩恵を受け取れなかった子どもたちはまるで水を得た魚のようにあらゆる知識と技術を吸収していった。
*
魔法もなく生きる知恵を身につけてきた者は、時に、魔法なくしては生きていけない信仰者たちよりも『まとも』な人間だと言わざるを得ない。
ただ信仰といって自己中を並べあげ、授かった恩恵にあぐらをかいてだらける『正式な国民』に見切りをつけたものたちほど、その判断を厳しく行なった。
やはりというべきか、子どもたちは半年も経たず偉い人に目をつけられた。
真っ当な仕事を持ちかけられ、悩んだ末に、子どもたちは一人の大人として仕事を受けたらしい。
……その協力のおかげで、自国に対しても隣国に対しても、反撃への大きな一歩を踏み切ることができたと、どこかの誰かが密かに涙を堪えていた姿があったとか、なかったとか。
ここまでが、『知っておいたらわかりやすい』話です。
本編とは関わりがあったりなかったり、布石だったり。
追加があったらこの後ろに差し込むかもしれません。
(2026/10/14)
お読みいただきありがとうございました。




