2、大人たち
「危ないことはしてねぇだろうな」
「だから、これは拾ってきただけだって」
いつも通り大袋をカウンターのそばへ置くネスに、カロズが注意を投げる。
耳が痛いほど言われる注意にむっと口を尖らせるも、心配されている事実に口元が緩む。
店に来る途中で遭遇した仲間から預かった拾い物も混ざっているから、「拾い物」を集めたのは自分だけではないのだし、と言い訳を思い浮かべつつ。
……ゴトリ、と倒れた袋から聞こえた重たい音に、思わずそっと顔を背けた。
いつも通り店の奥へと案内され、手際よく机に荷物を広げて顔を顰め始めたカロズ。
「っ……たく、」
落ちているはずのない物が袋から出てきたのを見て目を見張るカロズ。
「仕方がないな」と続くはずのいつもの愚痴は、突然現れた怪しい男によって遮られた。
「おー?何それぇ」
不意に横から聞こえてきた声とともにジリジリと首後ろが痛む。
間違いなく横に居るのに気配はないまま、いつもと変わらない不気味さだけが漂っていた。
いつも通り作業中で返事をしないカロズに、怪しい男は品物に触れようと棚へ手を伸ばす。
また壊したり盗ったりするのではないかというネスの心配を他所に、その手はすぐさまカロズによって止められ、
「おい、くすねたものを出せ。どうして育ちがいいくせしてそこいらのスリより手癖が悪いんだ」
「えー。オレ、別に育ちは良くないしー」
今日は盗られたらしい。
怪しい男が「そんなーひどいー」と心にも思っていなさそうな声色で駄々をこねながら、もう一度手を伸ばして何かを置くような動きをした。
何をしたのか全くわからない。
いつ見ても魔法を疑いたくなるネスは、じっと観察したくなる気持ちを抑えながら、無意識に一歩下がって距離を取った。
そんな様子を見ていたカロズは、密かに深いため息をついた。
*
「んー?」
声と共に強い視線を感じたネスは、恐る恐るその方向へと視線を向ける。
と、そこにはなぜか愉快そうにこちらを観察する怪しい男の姿があった。
真っ黒のローブで全身は見えず、袖口から覗くのは『珍しい』騎士団の隊服。
フードを被った顔は不自然に見えないものの、隙間から覗く髪は灰色がかった緑をしている。
いつ見ても同じ格好のその男は、店に姿を現す頻度に反して外で姿を見ることはあまりなく、服装以外にも謎の多い人物であった。
自然と隅へ詰め寄られるように距離を狭められ、驚き怖さで体が強張る。
いっそ、怖がる振りでもしたら鬱陶しく感じて距離を置いてくれるか。
そう思って不意に視線を向けると、それだけでさらに興味の色を濃くした視線が強くなった。
「……」
何かするだけでも余計に煽ることになりそうだと確信したネスは、いつも通り無視を決め込んだ。
この怪しい男は、カロズに会いに来る人の中でも指折りのおかしな人だと、子どもの間では密かに要注意人物指定されている。
遭遇すれば体調が悪くなり、そこら辺の人攫い以上に鬱陶しい視線を向けられる。
大人のことを信用していない子どもからすれば、視線を向けられることは嫌がらせに等しい。
そしてそれを分かった上で無言で注視してくる男は、もはや敵に違いなかった。
そのせいか、この男を見かけたことのある全員が毛嫌いしていて、見かけ次第脱兎のごとく距離を置く。
しかし、この人が出入りした後は金払いが良いしお菓子も貰えたりするのだからと、嫌いにはなれないネス。
まさか自分が嫌ってはいないと見抜かれたからこそ要観察されているとは、知る由もなかった。
……とはいえ、あまり向けられたくはない視線の強さに、失礼にならない程度に距離を取りたいネスは、素早く逃走路を考えて用事を後回しにする方法を身につけていた。
「……あとでまた来る!」
「お、おう。危ないことはすんじゃねぇぞ」
ずりりと後ろに下がりかけた足を一歩に変え、そのまま方向転換して店を後にするのだった。




