1、日常
「おっちゃん!お店開けてー!」
その軽快な声は、薄暗い顔色を俯かせる人たちの前を通り過ぎ、物陰から手を伸ばし舐め回すように観察するものたちの顔色を悪くさせる。
『何でも屋カロズ』
それがここ壁の外での唯一の良心的な取引をしてくれる場所。
扉の前には、強い日差しを浴びて金髪と見間違うほどの薄い茶色の髪を短く散らし、深い海のような色の瞳を輝かせる少女の姿がある。
「朝からうるせぇ」
がら悪く返事をしながら扉を開いたのは、ボロボロな建物に似合わないほど屈強な肉体を持ち、厳つい顔をした大男。
彼こそがこの店の店主であり、子供達のために身を潜める元騎士の一人。
ボサボサの灰色の髪は素敵に刈り上げられており、茶色の瞳は疲労ゆえか薄く影が差している。
そんな、いかにも厳つくガタイの良い大男…カロズがわずかに体を縮こめているのは、疲れているからでもドアの枠が体より小さいからでもなく、
「デケェ荷物は昨日で終わりっつったよな?」
「これは朝来る時に拾ってきたやつだよ」
顔を合わせるたび視線を合わせようと顔を上げる子供達に、彼なりに気を遣った結果だった。
逆に顔に影がかかって怖いというのは、子どもたちの密かな総意。
しかし残念ながら、見た目に反して繊細な彼にそのことを伝える子どもはおらず、長年解消されていない初対面での大泣きの理由の一つとなっていた。
「拾った、にしては多いと思うんだが?」
体を震わせるような低い声で問うカロズだが、足を止めずに店内へ入ろうとする少女の様子を見て、後退りするように重たい足を動かした。
少女の呼び名はネス。
身長は小さいけれどおそらく八歳ほど。
本名も来歴も、ここスラム街にいる限り問われることはない…とはいえ、完全に知る者もいない幼い子供というのは珍しかった。
メート国の者でないどころか、周辺の国の者でもないことを確信しているのは、未だカロズのみ。
カロズとネスの関係はおよそ一年前から。
ネスがここへ初めて来た日から始まった。
何かしら訳ありなのはここにいる人は全員と変わらない。
深入りする余裕があるものも、自ら語ろうとする物好きも居らず、当然ネスがここへ来る前のことは未だ誰も知らない。
一年経って知られている話だと、彼女が『おまじない』を使うことと、潜んでいる協力者たちに勝るとも劣らない特殊技能を身につけていることくらい。
あと、死体処理と掃除が上手いこと。
ここへ来てわずか一週間で子どもたちの集団に仲間入りし、その全員に生き抜く術を身につけさせた。
後のことを考えてそうしたのか、受け身でいるばかりの同類を見ていられなかったからなのかはわからない。
ただ、ネスの異質さは全く目立つことなく「子どもたちがすごい」という噂にとどまったのは、彼女が意図して操作しただろうことは分かる。
生きる術を身につけ、あっという間に自己流へ昇華させた子どもたち。
半年が経った時点で既に専門職顔負けの情報収集能力を身につけ、中には国から仕事をもらうものまでいるらしい。
……いつか同僚になる日が来るかもと胸を躍らせる協力者も多い。
とはいえ、率先して危ないことにまで入り込むのは、心の底からやめてほしいと思う協力者たちだった。




