三、複雑な事情
どうして国が二分することになったのかとか、分離した側についた人間がどうして他国の貴族らしいのかとか、分からないことが多すぎる。
私が首を突っ込むべきは今ではないし、そもそも関わるようなことではないことは分かっているけれど。
けれど、『こんな終わり方はダメだ』と頭の中で誰かが騒いでいてうるさいばかり。
そもそも私にできることなんてないし、関わりすらないのに何がダメなのかさっぱり分からない。
これは一体誰の思考だ、と頭を抱えて考えているうちにいつの間にか眠っていたらしい。
日差しに目が眩んで瞬きをしてから、いつの間にか1日が終わって朝になっていたことに気がついた。
なんとか格好を整えて、崩れかけている布の山を立て直し、昼前かと思われるような賑やかさに少しばかり慌てて階段を降りた。
「おはよー」
「起きたか」
階段を降りてすぐ、店の奥の定位置に座るカロズと目が合った。
店の中は人が減ったけれど、それでもいつも以上に賑やかで人の出入りが多い様子がすぐに伺える。
ふとそちらに視線を向ければ知り合いがいて、手を振り返して無事を伝えれば安心したような笑顔が返ってきた。
階段を降りるとすぐに、カロズからチャリリと音を立てる重い皮袋を渡される。
「これは?」
無言で確認しろとばかりに顎で指され、店の隅でこっそりと開けば音の通りにお金が大量に入っていた。
今までの情報と品物の代金にしては多いけれど、と疑いの視線を向けてもカロズは表情を変えることなく口を開く。
「店じまいするからな。あるうちに渡しておく」
「そう、ありがとう。あ、おっちゃん。レオについて何か聞いてない?」
「あ?聞いてねぇ」
誰だそれ、と顔を顰めるカロズを見るに詳しい説明はされていないらしい。
知りたげな顔を浮かべられるも、荷物をまとめて客を捌いてと忙しそうな様子を理由に話を断った。
*
「ネスお姉ちゃん!」
軽い食事をしてから、ほど近くの壁周辺を歩いていると聞き覚えのある、けれどもここでは聞こえないはずの声が聞こえてきた。
知り合いに会えることを期待してはいたけれど、想像すらしなかった人選で慌てて振り返ればさらに思いもよらない人影があった。
「え、レオ?と、ルーエンさん!」
「やっほー」
後ろを振り返るなり駆け寄ってきていた小さな影は、ぶつかる寸前でルーエンに首後ろを掴まれて体が宙に浮く。
その拍子にフードが剥がれて淡く光を放つ金髪が溢れたけれど、そんなことよりも泣き腫らして歪んでいる顔から新たに涙が溢れ落ちてくることに驚いた。
「お姉ちゃ、ぅ、わぁぁーん!」
堰を切ったように泣き始めたレオを、駆けてきた勢いのままなんとか抱き上げて宥めようと背をさする。
触れれば触れるほど涙が溢れる様子なレオを見て、ルーエンと共にカロズの店へと向かうことになった。
騒がしい人の中でも、泣き喚く子どもは目に付くけれど、それが容姿の良い見慣れない子どもなら特に視線が集まるらしい。
危うさは感じないけれど、よくない注目具合にルーエン密かに警戒度を上げるのが分かった。
少しずつ落ち着きを取り戻したのか泣き声は小さくなったけれど、肩へ埋められた小さな頭からは未だじわじわと温い水が溢れている。
聞いた話といい、周りの変わり様といい、落ち着きを見せない周囲の環境に疲れが溜まってきているのを感じる。
レオが小さな体を震わせてひくりと息を吸う音が、やけに大きく聞こえた気がした。
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