二、知っているコトと分かっているコト
「で。最初に死んだ奴ら……雷の落ちた屋敷にいた奴らがこの国の重役だったらしく、ウチの国も危うい方へ向かっている。ヘクタ国の住民だったのをこっちで受け入れるかどうかって会議をしようって時に、協力国のお偉方が手を引いた。それと一緒に、他国を生まれとする貴族の奴らほとんど全員がそのまま居なくなった」
「それじゃ、ぁ」
現実を疑いたくなる言葉に、ひくりと喉が引き攣って食べ物が通らなくなる。
「そう。この国の崩壊も近いって訳だ。今国に残ってるのは現国王と、本国へも帰る場所がないことを『自覚している』奴らだな。このままだと、うちは神がいるいない以前に国としていられなくなる、というかもう順番に周辺国への受け入れを願っているところらしい」
顔色の悪い、もういっそ呆れたように淡々とした口調で話される事態に理解が追いつかない。
真っ当な仕事についている奴らはもう既に迎えがきてるしな、とぼやかれた言葉は右から左へとすり抜けていく。
そのまま驚きと混乱で食事の手が進まない私は、これで全部だと言いたげに肩をすくめるカロズが、席を立ってどこかへいくのをただ呆然と見送ることしかできなかった。
*
誰かの手が頭に置かれるまで、周りの音も聞こえなくて。
時間そのものが止まっていたのではないかと錯覚する。
きっと、本当に……。
「おい。体調は」
「ネグ、さん」
「この前は疲れてるとこ悪かったな」
「この前?」
「あ?お前、三日寝っぱなしだったンだぞ、ってその様子だと誰にも聞いてねェのか?」
「聞いてません……」
みっか、と何かの鳥のように同じ言葉を繰り返してぽかんとする私を見てか、ネグは無言で腕の怪我を調べ始める。
顔色もよくよく観察され、瞳を覗き込まれて、ご飯は食べたのかと聞かれて頭の片隅でぼんやりと頷いた。
「とりあえずは大丈夫みてェだな。……この騒ぎの原因はカロズから聞いたのカ?」
「……はい」
「あいつどこまで話したンだか。アー、二週間後に魔物避けが消えるのは聞いテるか?」
「聞いてませんっ?!」
「だろォな。明日か、明後日かくらいにルーエンが来るから、話をつけるがてら今後の事もついでに聞いときゃイイ。俺も忙しいから今日はもう行く、お前はまだ二階で絶対安静だ。外で見かけたらぶっ飛ばすからな……あと、祈りの家の方もゴタゴタしてる。気ィつけろ」
そっと言い置きしていった言葉に、惚けるばかりの思考はともかくとして用心すべく気を引き締めた。
がやがやと未だ話し合いの続く人から見送られ、残りの食糧が詰まっている袋を抱えて2階へ行き扉を閉める。
椅子をつっかえにして立てかけたところで、力無くぺたりと床に座り込んだ。
「一体、何が……」
誘拐は発端じゃなく、ほんの些細なきっかけに過ぎないのだと思う。
一年ほどかけて集めたこの国の情報はあまり良いものではなかったし、おかしいと首を傾げたくなるほど知っているべきことを知らない人が多かった。
多分、最初から破綻していた。
メート国は、ヘクタ国から逃げ延びた人が作った国。
そこそこの教育と情報を得ていたという自負がある私でも、ここへ来るまではメラクトの名前すら知らなかった。
建国から百年も経っていない新興国かつ名も無き神を主とした国。
若い、というには人間の尺度から見てふさわしくないけれど、ヘクタはそろそろ大国に並ぶかという歴史があるし、『今は』周りと比べたら随分と幼い歴史を持つと言える。
名も無き神は、元は契約をするに足らない魔法を『扱う』存在だったり、名乗りが多くの人間に信じられ、つくられた存在だったりのことを指す。
思うに、メート国のメラクトは後者でヘクタ国のヘクトーネは前者。
どちらにも共通する要素は、神子が国を立ち上げたということ。
そしてもう一つ、ヘクトーネから逃げ出した神子候補がメラクトを担ぎ上げた、ということしかわからない。
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