一、寝起きはいつも大忙し
章として分けるには短いですが。
ばたばたと誰かが走る音がして、誰かが誰かを呼んでいて。
夢の中で誰かに頭を撫でられた気がして、揺籠のようなまどろみから手を伸ばす。
けれどもそこには誰もいなくて、ただ鈍い光を放つ鍵だけが手の内でしゃりりと軽い音を立てた。
「!いまっ、は……」
がばりと起き、無意識に握りしめた手の感覚で腕の怪我が治っているのがわかった。
がやがやと下から聞こえてくる大量の人の声。
その人数の多さと自分の心臓の音でよく聞こえないけれど、ただ嫌な予感だけが脳裏で警鐘を鳴らしていて急いで駆け出した。
今回ばかりは気のせいだとか考えている余裕もないらしい。
ギリリと噛み締める音が自分から聞こえて、無意識に歯を食いしばっていたことを知った。
「おっちゃん!」
「ネス?起きたのか!体調はどうだ」
「みんなは、どうしてここに。この騒動は?」
いつもは買取の人しか招かない店の奥、2階へと続く階段のすぐそばまで人が居た。
若干顔色が悪いおっちゃんと、焦りと不安の混ざった空気を漂わせる知り合いたち。
それぞれがこちらに目を合わせ手を伸ばし、私の無事と体調を気遣ってくれるけれど、どこか無理をしているように見える。
一つ、確実に聞こえたのは『隣国の神が消えた』という不穏な言葉。
思わず息をのみ、自分の耳を疑った。
「おっちゃ、」
「お前はお前の健康を先に把握しろ。詳しい話それからだ」
「け、怪我は治ったよ。痛くないし問題なく動く。お腹が空いているけど眠気はない」
「じゃあ飯食え。食ってる間に話す」
「わっ」
投げ渡された食料の袋を慌てて受け取り、その重さに目を見開く。
中を調べれば珍しい果物や品質の良い干し肉、野菜入りの携帯食と練り込みの美味しいパンが入っているのが見えて、思い出したかのようにお腹が鳴った。
「これ、」
「お前のだ、さっさと食わねぇと説明しねぇぞ」
「いただきます!」
早速、とばかりに一番最初に手に取った果物に齧り付けば、じゅわりと滲み出る旨みと水分が体に浸透していく。
一心に味わいたいほど美味しいけれど、食べているのだから話をとばかりにカロズへ視線を向ければ、呆れたようにため息をついてから話を始めた。
「まず、雷が落ちた屋敷の人がお前が帰ってきた日あたりで全員死んだ。全員と言っては語弊があるが、意識不明として運ばれてった奴らは全員な」
「へ?あ、ちょっと」
「それから子どもが一人、隣国ヘクタの貴族関係者に危害を加えられそうになった。子どもは無事だが、拉致犯とその関係者が死亡。隣国のお偉いさんもちょうどその時にまとめて死んだらしく、一気に国としての体制が崩壊。しばらくしないうちに祭壇が消え、ヘクタにいた神子も消えた」
「は。消え、た?」
思わず手に持っていたパンを落としかけて、慌てて拾おうとして水袋をひっくり返しかけた。
周りの人の喧騒がどこか遠くに聞こえる。
今すぐにでも誰か嘘だと言って笑ってほしいし、冗談だと言ってカロズの顔が緩むのを期待してじっと見つめるも、何も変わらない。
自分の視線が彷徨うのを自覚しつつ、そんな様子に落ち着けとも言われないことが、その話が本当であるという理解を促している気がした。
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