十七、複雑な事情と話の順番
「まず、この話をするのはネグさんが当事者かつ治癒士だからで、口外しないでほしいのはネグさんも危険になるからです」
背負われている時に、どこまで話をするかを考えていた。
何も話さずに姿を消すことも、全てを黙して今までのような生活を望むことも視野に入れた。
前者だと生活に悩むことになるのは確実で、さらに今まで以上に危険な旅になるし、後者だと既に戻らない関係を望むだけの、最悪な生活となるのが容易に想像できてしまった。
今ここで話すのは、楽な道ではないけれど最善の選択だと思うから。
危険になるのを分かっていても聞きますか、と言う前にネグが口を開いた。
「さっさと話せ、危険なら元から然程変わらねェ。野良治癒士の危険度を甘く見るんじゃねェよ」
「……わかりました。最初から順番に話します」
家を壊されたのだって何度目か、とぼやくネグはすぐに真剣な顔に戻って話を促してくる。
このおまじないを人に話すのは初めてだ、とぼんやり思いながら話を始めた。
「ネグさんの怪我は、私が奪いました」
「お前、魔法は使えないはずだろ?」
「はい。おまじないです」
疑り深く睨んでくるネグが、詳しく話せとばかりに顎をしゃくる。
「『私の知るもの』であること、そしてその『怪我の過程を見て知る』という前提条件で、他の人の怪我を私の体のどこかに移す、という」
「そんな危ねぇもん使うんじゃねぇよ!」
想像よりも大きな声に、自分の肩がびくりとはねるのがわかった。
済んだことなんだから落ち着いて聞いてくれればいいのに、なんて、自分がされたら間違いなく同じ反応をするに違いないけれど複雑な感情が湧き上がる。
「だって、首を刺されたら死んでしまいます。それに、『体のどこか』といっても傷の大きさである程度決まっていますし」
「腕だからいいと思ったってか?つか、俺が切られたのよりも確実に重傷になってんのはなんでだ」
ぐさり、と痛い所を突かれてしまった。
何か怒られないような言い訳をと言い淀む私を見てか、苛立ちを募らせるようにネグが言葉を続ける。
「それに治癒魔法だっておかしいくらい効かねェ。様子を見てる限り、痛み止めも薬も何も効果が無いように見える。止血こそできてるが、どうしてあれだけ安静にしてかつ魔法を受けられる環境にいて少しも治ってねェんだ」
と、素早く腰をあげてこちらに近づき、動けないでいる私の腕を優しく持ち上げる。
ネグはすぐに淡く光を放つ治癒魔法を構築したものの、効果を果たさず光の粒子となって宙に散った。
「そもそもここへ来る前だっておかしかった。なぜ魔法も薬も反応がないのにあれだけ全身が痛くなる?結界から出せと言われて、ルーエンのこともあったり国がきな臭ェのもあってここへ連れて来はした。だが……いい加減話してくれてもいいんじゃねぇか」
雑草をかき分けるように少しずつ話を進めるところを、木を切り倒して道を作った言われたかのような気分になった。
だから、最初から話すって言ったと思うんですが?!と心の中で憤慨しつつ、なるべく落ち着いて口をひらく。
「……怪我は、私の認識ではこれくらい酷く見えたんです。実際よりも差異が大きいと失敗しますが、成功したということはそれなりに酷かったということで、」
「怪我の度合いも見てわからねぇ子どもが、あの時会っただけ他人の怪我を勝手に被るんじゃねぇよ!」
ぷちり、と自分の我慢の糸が切れた音がした。
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