十六、帰る場所と回復
門から出てすぐ、姿を隠すために大きなマントを頭から被せられた。
無警戒でいかにも通行許可書を持ってます、なんて行動をしたら余計な人に狙われて面倒なことになりかねないからだろう。
「カロズの店に行く。俺の家はまだ片付いてねェし、あいつの店の方が安全だからナ」
見慣れた道を少しばかり懐かしく見回しつつ、ちらりと見えた仲間の顔が驚きに変わっていくのを見て、少しだけホッとしてしまった。
数日間姿は見せなかったけれど、どうでもいいじゃなく心配の方へ気を寄せていてくれたのがわかって、申し訳ないような嬉しいような。
時間にしては昼過ぎあたり、表の賑わう道から一本逸れた安全な道を歩くネグの周りは、ぶつかるほどの人はいないけれどそれ以上に不自然なほど人が避けていく。
当然のように知人ではないけれど知らない顔ではない。
どうやら一応気を遣ってくれているのか、けれども平然と歩くネグは微塵も気にしている風には見えなくて少しばかり混乱した。
「上は空いてんぞ」
「オぅよ。邪魔すんゼ」
「……よく帰った」
店が見えてすぐ、扉の前に立っているカロズと目が合った。
不注意で攫われたとはいえ心配をかけたらしい、ネグを通り越して体に突き刺さる視線が痛いけれど話しかけてくる様子はなかった。
遠慮なく二階へ上がり、迷うことなく部屋の扉を開けて椅子へ下ろされた。
一度だけ入った記憶はあるけれど、その時も体調不良だったから懐かしい気分になる。
「治療は自分で出来んのか」
「ちょっと待ってください」
何かと目を瞬かせるネグを他所に、下ろされた椅子から立ち上がって扉や窓を閉める。
結界から出た時点で体の痛みだんだんと和らいでいて、今は痺れたような感覚が残るだけ。
それでもやっぱり、前と同じように動いたり生活する分には支障があるけれど。
こればかりは本当に仕方なく、やむを得ず、最終手段で……と心の中で言い訳をしながらネグから一番遠い部屋の隅へ立ち、手を緩く合わせた。
「……『鍵』」
自分にすら聞こえない小さな声で、けれど確かに祈りを込めて喚ぶ。
すると、しゃりんと柔らかな澄んだ音を合図に手の内に鍵が現れ、途端に体を包むように温かいものが周りを巡り、痺れも疲労も解けるようになくなっていった。
気が抜けすぎて座り込みそうになるのを堪えながら顔を上げると、ネグがこちらを見ながらカチリと固まっているのが見えた。
「ネグさん、ネグさん!」
「オ、おォ?」
「とりあえず座りましょ、説明はそれからします」
未だ手の内にある鍵を強く握り締めながら、うっかり抜けすぎた警戒と上がりすぎた気分を鎮めていく。
こういうのは何て言ったらいいのか、両親の腕の中くらい安心できる感じがしてどうにも気が緩む。
気を緩めていい時ではないのに、これさえあればどうとでもなるような気がして心強い。
抑えきれない口角の上がりを握り拳で隠しつつ、一方で動揺が少しも鎮まらないネグの手を引いて無理やり椅子に座らせた。
「順番に話します。落ち着いて聞いてください」
驚きで空を泳ぐネグの瞳がその一言でぴたりと止まって、こちらを向いた。
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