十五、帰還への道のりと約束
章タイトルを「誘拐」から「拉致」にしました。主人公目線では誘拐に変わりないので内容の変更はありません。
「おい、帰る」
「あ、やっと……え?どうしてネグがネスを背負ってるわけー?」
いくつか理由を話して、最終的には国というよりとにかく結界から出たい、そう言った途端にネグに背負われた。
背負っていいかと聞かれてたら断っていたかもしれないから、逆に聞かれずに背負われてよかったかもしれないけど驚いた。
自分で動かす動かさない関係なく痛いものは痛いけれど、純粋な怪我じゃないからか一度に感じる痛みの強さに上限がある……ような気がする。
「ぅーー」
「わりぃ、なるべく丁寧に運ぶ」
そう言われるけれど、いつの間にか口に突っ込まれた布を噛み締めながら、微動だにできないような、暴れ回りたいような痛みに耐えるのに全力で返事ができない。
骨がゴリゴリ削られるような、内側の内側がピリッとする痛みが全身を這い回る。
「コレは俺の患者だ。連れて帰らねェでどうやって面倒見る」
「オレまだ話してないけどー?それに、ここから出すと思ってんのー?」
「体が治らなきゃ話すもんも話せねぇ、ここにいたら治るもんも治らねぇ。ンなら俺の患者として連れて帰るしかねェだろ」
「そう、だけどー……」
行手を阻むように廊下の真ん中に立つルーエンに、ネグは真正面から向かって足を止めた。
「マーレにも言われて分かってンだろ。人のいる環境に慣れてない人間が療養できる環境じゃねェってな。お前だって最近忙しくしてるじゃねェか。それならここにこいつが居る必要ねぇし、居ない方がこいつの危険もお前の疲労も少なくて済む」
言うことがないのか、うつむきかけるルーエンの顔には確かに数日前から疲労の色が見える。
彼が得意ではない追跡魔法を、私を含めてかけてあることは帰りたい理由の一つとして真っ先にネグに伝えておいた。
聞いたネグも顔を顰めていたから、本当に得意ではないらしい。
ふっと魔法が解かれる感覚がしたのと同時に、少しだけルーエンの顔色が良くなった気がした。
「外に連れ帰って治して待ってるから、時間作って話聞きに来い。……俺らも、構ってやれなくて悪かったな」
「は、」
そう言ってルーエンの頭を雑に撫でたネグは、喋り方も声色もちゃんとした大人のように見えた気がした。
一瞬だけルーエンの顔がくしゃりと歪んだ気がしたものの、すぐに真下を向いてしまって表情は分からない。
しかし、そんな様子のルーエンを見てほんの少し目が優しくなるネグは、気づいていないふりをするかのように空いた廊下へと足を進めた。
しばらくして表情を戻し、フードを被り直したルーエンが慌てて後ろから追いかけてきたものの、今度は引き止めるようなことはしなかった。
「臨時の通行許可書は渡しとくよー。……引き留めてごめんねー。オレが送る手段がなかったのは確かだけど、引き取りに来るって言った二人を止めたのはオレだからさー」
「ぅい」
「はは、わかんなーい。元気になったらまた話そうねー?」
そう言って、器用に歩きながら振り返ってきたルーエンと視線が合う。
柔らかな光の灯る瞳に何とか了承の意を込めた視線を返すと、なぜか笑いながら前に向き直っていった。
「ルーエン、ここまででいい」
「うん……また、会いにいくよー。元気でねーネグ。ネスも、ちゃんと治してもらってねー」
チャリリとお金の音が鳴る丸い袋を門番に握らせたルーエンは、笑顔で個人用出入り口の扉を開いて手招きしてきた。
あらぬ方向を向いている門番の後ろ姿を見つつ門を潜り抜け、扉が閉まる前に振り返れば手で少しだけフードを持ち上げ、しっかりと瞳が見える状態でこちらを見送るルーエンの姿があった。
お読みいただきありがとうございます。




