十四、正直者の偽り
「で、ネス。怪我はどうした」
「血は止まりました」
「そォじゃねぇ……つっても、こいつが邪魔か。おいルーエン、しばらく部屋から出てろ。魔法も使うな」
「んぐっ、て、無理やりじゃ、」
バタンッ、とネグがルーエンを持ち上げたかと思えばあっという間に一人運び出されていた。
部屋の鍵はないものの、すぐ側にあった椅子をドアノブに立てかけて開かないようにネグが細工をする。
外側からガツガツと扉を叩く音に対して、部屋の内側からネグが勢いよくドアを一度叩く。
あっという間に物音一つしないくらいに静まり返った。
「これでいいだろ。……で、説明できんのか。できないなら聞かねぇ、話せることだけ話せ」
あいつには後で俺が話せると思ったところだけ話す、というネグの顔は至って真剣で。
そんな様子を見て、やっぱりルーエンは私の同類だと確信せざるを得なかった。
素質持ちは、強力な影響を与えられるものほど正直者である。
それは、神への言葉が偽りなきものでなければいけないという契約に準じて、影響力あるものはそれに相応しい言動をとるべきであるという刷り込みがあるからだ、と言われている。
いや、刷り込みというのは適切ではないかもしれないけれど、知らずとも影響されているという意味では、正しく言い表す言葉だと思う。
けれど、知っていても知らなくともとても厄介な性質だ。
「ネグさんは、ルーエンさんのこと知ってるんですか」
「俺の元後輩だ」
「そうじゃ、なくて」
「あ?あいつについて知りたいならあいつに直接聞きゃいい」
別に黙ってろとは言われてないが、と続いた言葉にすぐ謝罪の言葉を返した。
本人のいないところで探るつもりはなかったけれど、動揺が続いていたらしいと息を吐く。
……素質持ち同士だとどうしても嘘が吐きづらいから、隠したいことを口にしないように上手に言い逃れるしかない。
でもそんな手法なんてお互いにわかっているから、あれこれとぼろを探られて結局は両方とも苦しい思いをする。
私は探り合いも隠し事もすごく苦手だから、話したいことと隠したいことが同時にあるとすごく疲れる。
沈黙で答えるという手もあるけれど、結局のところ言ってしまいたいという気持ちが強い。
「大丈夫か?」
「あ、はい。ごめんなさい、えっと……」
正直なことと信頼できることは違うし、何より素質を持ってるからと言って全員が仲間や友人になれるわけではないのは、分かっているけれど酷くもどかしい。
似た者同士での騙し合いなんて、最終的には無駄な抵抗にしかならないのだから。
一応、正直である方向性を制御することによって、それ以外では普通に嘘がつけるようになれたりする、らしい。
それは正直でなければいけないという刷り込みが、誰に対して素直であるかという心構えで左右できるものだからだ、とか。
……聞いたままを思い出しているあたり、私にはいまだに出来ないしよく分かっていないことを改めて認識して落ち込む。
「……なんとか、外に出る方法はありませんか」
今は、話す話さないのどちらにしても、ここに留まったままでは都合が悪い。
外に出ればとりあえず体調回復の見込みがあるからと、こちらの事情は何も話さずなんとも身勝手で我が儘なお願いか。
しかし、残念ながら今私に思いつく案はそれしかなかった。
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