十一、怪しい人から知人に昇格
怪しい人は食堂で、私はそのままベットの上で食事を終えたあと。
再びやってきた男は相変わらずフードを被っていた。
「隣で話を聞いてあげられなくてごめんなさい。何かあったらベルを鳴らしてちょうだいね。すぐ来るわ」
マーレに渡されたのは、ベットの横に吊るしてあるベルに繋がった長い紐。
無闇に話を人に聞かせないためか、それとも本当に忙しいのかは分からないけれど、いかにも心配だという顔で迫られてひたすら了承の意を伝えるのに苦労した。
「もー、いくらオレでも怪我人に無理させないってばー」
パタリと扉が閉められた途端、そう小声で愚痴を言いながら椅子の上で器用に姿勢を崩す男。
フードの隙間から見えた口が不貞腐れたように尖っていて、珍しい表情だと観察していると不意に視線が合った。
「……とりあえずオレの名前は言っておこうかなー。ルーエン・リヒテル、国定魔導師部隊の副隊長兼騎士。よろしくねー?」
自己紹介と共にパサリと取ったフードの下には、藍色の髪と空色の瞳。
整った顔立ちのまま、一瞬眩んだように細められた目は少しだけ空を泳いでからこちらに向けられた。
「お世話に、なります」
「もちろん保護はするけどー。そうじゃなくて、キミの名前はー?」
「……ネス、と呼んでください」
油断なくこちらを見る、笑っていない目。
呼び方じゃなくて名前だけど?という言葉が声もなく伝わってくるのを、分からないふりをする。
しばらく無言の戦いが続き、ついベルに繋がる紐へ目をやると諦めたようにため息をつかれた。
「カロズんとこで会った時のことを聞きたいけどー、先にどうしてここにいて、そんな怪我をしているのか話してもらっていー?」
「わかりました」
うんうん、と頷く怪しい男……ルーエンに、小さく頷き返す。
寝起きはあやふやだった記憶も、食事中にしっかり思い出せているから大丈夫、だと思いたい。
驚きと衝撃でバラバラになった記憶が、消し飛びでもしていない限りは……一応前後はちゃんと繋がってる、と思うけれど。
「えっと、何でも屋に向かってるところをうっかり攫われて」
「うん、うん?」
「あ、」
「どしたのー?」
「いえ、後で言います」
さっき記憶を掘り起こす作業をしているときはうっかり忘れていた。
たらりと首後ろを伝った冷や汗に、心の中で必死に言い訳をしながら説明を続ける。
「……ネグがいて、後からレオが運ばれてきて」
「ネグが?レオって誰だー」
「しばらくして人が来て、また運ばれて」
「また?」
「目が覚めたらベットの上で、その後目隠しと拘束されて運ばれて」
「う、ん?」
「気がついたら外にいて、ルーエンさんの声聞こえて気が抜けて気絶して、目が覚めてイマココです」
「……わー」
我ながら上手く話せたかな、と思い出すために自然と上へ向いていた視線を下げる。
ルーエンは、と視線を向ければなぜか不自然に固まっていた。
こっそり顔色を伺えば、どうしてか瞳に光が無く表情筋がスンとしている。
いつも微笑を浮かべているから何気に真顔は初めて見たかも、なんて、あまりの怖さに他人事のように感想が浮かぶ。
たっぷり数拍置いてから思い出したかのように瞬きしたルーエンは、ゆっくりと息を吐き、姿勢を正しながら座り直した。
どこかピリピリとした緊張感の中、視線を上げたルーエンは険しい顔のままこちらを見て、ふっと表情を緩めてから口を開く。
「記憶がはっきりしなかったり、思い出したくなかったりするわけじゃないならー……最初からもう少し詳しく話て欲しいなーって思うんだけどぉー……だいじょーぶ?」
その瞳には、確かに私への心配の色が浮かんでいた。
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