五、もう一人の子ども
「一応もう一回いうが、俺のことは絶対に言うなよ。俺も、俺からは他の奴らには絶対言わねェ」
「私も、ネグさんのことはただのお医者さんって覚えておきます。………でも、どうして私に素質持ちだって言ったんですか?道連れ的にネグさんもバレますし」
「ただでさえもクソめんどくせぇ状況だからな、オメェさんがどこまで関わって、どこまで理解しているかを知るために聞いただけだ」
一番良くて悪い結果になったがな、と遠い目をしたネグ。
勢いよく食料を引っ張り出して、やけ食いかのように昼食を取ることになった。
その後は会話もなく、変化もなく。
お互いが疲れたままぼんやりとしたまま昼を過ぎ、夜になり……何の脱出方法も考えないまま眠りについた。
*
騒々しい音で目を覚まして最初に見たのは、艶やかに輝く金髪を揺らしながら震える小さな子どもと、怖くないと声を大にして訴えるネグの姿。
誘拐ですかと言いかけて、自分も誘拐されてるところだったか、とぼんやり思った。
思わず何も見なかったことにして二度寝しようとしたところで、パチリと視線が合う。
ブワッと涙目になった二人を見て、仕方なく起きた。
「どうしたの」
「あのひとこわい」
こちらに気づくなりひしっとまとわりついてきたのは、やっと喋るようになったかという年齢の幼児。
涙目で重たげな頭を震わせている様子に、思わずネグの方へ冷たい視線を向けてしまう。
「おい、オメェを袋から出してやったのは俺だっての。怪我ないか確認するから、こっち来い」
「ひぅっ」
ネグの怒った様子に怯えたのか、みるみるうちに大きな瞳に涙が溜まる。
そっと頭を撫でると再び目線が合い、さらに体を寄せてきた。
どうしてこんなに懐かれてるんだろうか。
小さな子どもの話に耳を傾けつつネグを見れば、まるで裏切られたかのような顔をしているて少しばかり申し訳なくなった。
ネグが怖いのか一向に震えが止まらない男の子は、頑張って「怖い人と知らない人に喋りかけてはいけません、と言われている」という事情と、「レオって呼んで」というお願いを耳元で囁いてくれた。
こしょこしょと囁く様にそう伝えてくる姿は可愛かったけれど、そんな様子につい私も知らない人ですよ、と言いたくなる。
多分、年齢は3、4歳。
滑らかな布と綺麗な金髪をしているし、幼児特有のむっちり肌は年齢以上に状態が良く手入れされているに違いないほどみずみずしい様子からして壁の内側の子ども。
おそらくお偉いさんの子どもに違いない、と聞こうとする前に私の背後に隠れて完全に口を噤んでしまった。
……知り合いでもない私を頼ってるのは、睨むように見ているネグの視線が怖いからだと思うけど。
「昨日の深夜、袋に入れられて投げ込まれてきたンだ。そっちは単に魔法で眠らされてただけだから、朝になって自然と目を覚ました途端コレだ」
「投げ込まれ、って」
「上が騒がしいし、そろそろ何か起きるかもしれねェ。その前に怪我がないかだけは見ておきてェンだが」
「やだ」
断固拒否という姿勢で後ろから顔だけを覗かせて言うレオ。
仕草だけで言えば可愛いけれど、よくよく考えると盾にされている気がする。
「レオさま、」
「レオ、っていって」
「……レオ。目を瞑って立っているだけでもいいので、ほんの少しだけ様子を見させてください。何もしません」
「なまえ、なぁに?」
「私のことはネスと呼ん、」
「ネス!あのね、ネスがいうならおとなしくするよ」
「ありがとうございます」
なぜかこちらを信頼するように仰ぎ見られ、その行動にふと心当たりがあって思わず息をのんだ。
もしかしなくともこの子、同じだ。
案の定、私の話はすんなり聞いてくれた。
あまりの疑問に首を傾げるどころか頭を落としそうになっているネグに、とりあえず診察をと急かした。
外では嫌われてなかったって、それはもっと怖いカロズが側にいたからだと思う。
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