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幕末ヒモ男児 ―7歳年上の女性に飼われた十代の青年が、動乱の時代を駆け抜ける―  作者: 木林進
外伝8 「お光が笑う理由(消えた一橋派の姫)」
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シーン8 復讐か、名誉か

翌日。


榊原が再び訪れた。


「光様。お決めになりましたか」


お光は静の隣に座っていた。


「父の書状はありません」


「本当に?」


「はい」


榊原は険しい顔になった。


「では、三枝家の名誉はどうなさるおつもりです」


「……」


「我ら旧臣は、七年間この日を待っていたのです」


「分かっています」


「ならば!」


静が口を開いた。


「榊原殿」


「何だ」


「あなたが望んでいるのは、三枝家の名誉回復ですか。

 それとも、改易に関わった者への復讐ですか」


榊原の目が細くなった。


「同じことだ」


「違います」


「何?」


「名誉を回復することと、誰かを殺すことは違う」


榊原は立ち上がった。


「女に何が分かる!」


静の表情が変わった。


しかし、その前にお光が口を開いた。


「榊原様」


「……」


「父は、私に守り袋を渡すとき、こう言いました」


お光は守り袋を胸に当てた。


「家がなくなっても、お前までなくなるわけではない、と」


「……」


「父は、私に復讐を望んでいたのでしょうか」


榊原は答えない。


「私は三枝家の娘です。

 父の名誉は取り戻したい」


お光は続けた。


「でも、そのためにまた誰かが死ぬのは嫌です」


榊原は長く黙っていた。


やがて、深く頭を下げた。


「……承知いたしました」


「榊原様」


「光様がそうお望みなら、我らも別の道を探しましょう」


男は静かに去っていった。

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