シーン7 父の遺言
その夜。
お光は静の家に残った。
榊原は翌日また来ると言って去っていた。
由太が夕飯の支度をしている間、静とお光は向かい合っていた。
「静」
「何だ」
「あなた、知っていたのね」
「何を」
「私が誰なのか」
「最初から知っていた」
「……そう」
お光は小さく笑った。
「私はずっと、あなたが偶然助けてくれたと思っていた」
静は答えない。
「でも違ったのね」
「ああ」
「誰に頼まれたの?」
「片桐宗兵衛殿だ」
お光は息をのんだ。
「片桐様が……」
「お前を京から逃がすようにと」
「……」
「報酬も受け取った」
お光は静を見た。
「でも、片桐様は亡くなられたのでしょう?」
「ああ」
「それなのに、どうして最後まで私を助けてくれたの?」
静は少し考えた。
「依頼を受けたからだ」
「それだけ?」
「それだけだ」
お光は静の顔をじっと見つめた。
「嘘」
静は黙る。
「あなたは、私が芸妓として暮らせるようになってからも、何度も様子を見に来てくれた」
「……」
「困ったことがあれば助けてくれた」
「……」
「それも依頼のうち?」
静は答えられなかった。
お光は笑った。
「ありがとう、静」
静は視線をそらした。
「……礼を言われることではない」
そのとき。
台所から由太の声がした。
「静さーん!」
「何だ!」
「お光さん、今日泊まる?」
「……なぜだ」
「布団出すから!」
静はお光を見た。
お光も静を見る。
そして、二人は同時に笑った。




