シーン6 七年後の訪問者
そして、七年後。
慶応二年(一八六六年)。
京都。
お光は、いつものように由太の作った昼飯を食べていた。
「由太、おかわり!」
「もう三杯目だよ」
「今日はお腹が空いてるの」
「お光さん、食費払ってる?」
「静が払ってるでしょ」
「それ俺の食費!」
「同じ家のお金じゃない」
「違うよ!」
そんな二人のやり取りを、静は黙って聞いていた。
そのとき。
戸口から声がした。
「失礼する」
見知らぬ男だった。
五十歳ほどの浪人。
「こちらに、お光という芸妓がおられると聞いた」
お光が振り向く。
男の顔を見た瞬間、表情が消えた。
「……まさか」
男は深く頭を下げた。
「小野寺光様」
由太が首をかしげる。
「おのでら?」
男は続けた。
「お久しゅうございます。
三枝藩旧臣、榊原源内にございます」
お光は立ち上がった。
「榊原様……生きておられたのですか」
「はい」
由太は静を見る。
「静さん、知り合い?」
静は小さく答えた。
「……昔の知り合いだ」
榊原は懐から書状を取り出した。
「光様。
三枝家の名誉を取り戻す機会が訪れました」
「……どういうことですか」
「一橋慶喜公は今や将軍後見職を経て、幕府の中枢におられます。
かつて一橋派に属したことが罪とされた時代とは違います」
静は男を見据えた。
「それで?」
「三枝藩改易の真相を明らかにするのです」
榊原の目が鋭くなった。
「そのためには、光様のお父上が遺された書状が必要なのです」
お光は守り袋を握りしめた。
「父の……書状?」
「はい」
「私は何も持っていません」
「その守り袋の中にも?」
お光の顔色が変わった。
由太は黙って二人を見ていた。




