シーン3 女間者への依頼
同じ頃。
京都。
神無月静は、一人の男と向かい合っていた。
まだ十九歳の静は、すでに情報の運搬や密使の護衛を請け負っていた。
剣の腕は確かで、何より冷静だった。
依頼人は三枝藩の旧臣、片桐宗兵衛。
「一人の娘を京から逃がしてほしい」
静は男を見た。
「追われているのですか」
「ああ」
「誰に」
「幕府の探索方……いや、正確には、それを装う者たちだ」
静は眉をひそめた。
「どういうことです」
「三枝藩の改易に乗じて、我らが保管していた書状を奪おうとしている者がいる」
「その娘が持っていると?」
「そう思われている」
片桐は懐から金包みを出した。
「娘の名は小野寺光。
家老の一人娘だ」
「行き先は」
「まず京の外へ。
あとは安全な土地を探してほしい」
「ずいぶん曖昧な依頼ですね」
「事情が事情だ」
静は金包みを見た。
「危険に見合う報酬ではありません」
「足りぬか」
「足りません」
片桐は苦しそうに笑った。
「そうだろうな」
そして、懐からもう一つ包みを出した。
中には古い短刀が入っていた。
「これは小野寺家に伝わるものだ。
足りぬ分は、これで……」
静は短刀を見た。
しばらくして首を振った。
「それはお返しします」
「では引き受けられぬか」
「いえ」
静は金包みだけを取った。
「娘を逃がすだけなら、この額で十分です」
片桐は目を見開いた。
「よいのか」
「ただし条件があります」
「何だ」
「娘には、私の指示に従ってもらいます。
身分も名前も、必要なら捨ててもらう」
「……承知した」
「それと」
静は片桐を見据えた。
「あなたは、娘が逃げたことを誰にも話さないでください」
片桐は深く頭を下げた。
「頼む」
その翌日。
片桐宗兵衛は何者かに襲われ、命を落とした。
静がその知らせを聞いたのは、光を迎えに行く直前だった。




