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幕末ヒモ男児 ―7歳年上の女性に飼われた十代の青年が、動乱の時代を駆け抜ける―  作者: 木林進
外伝8 「お光が笑う理由(消えた一橋派の姫)」
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シーン2 安政六年、消えた三枝藩

七年前。


安政六年(一八五九年)。


幕府は大きく揺れていた。


第十三代将軍徳川家定の後継者をめぐり、幕府内部では激しい対立が起きていた。


一橋慶喜を推す一橋派。


紀州藩主徳川慶福を推す南紀派。


やがて大老井伊直弼の主導によって慶福が第十四代将軍家茂となり、一橋派の関係者に厳しい処分が下された。


世にいう安政の大獄である。


その政治的混乱の中で、一つの小藩が姿を消した。


三枝藩。


一万五千石。


小藩ながら、代々幕府に仕えてきた譜代大名の家であった。


しかし、藩主三枝信敬は一橋慶喜の将軍擁立を支持していた。


藩主の側近である家老、小野寺重房もまた一橋派だった。


そして、幕府の政争は三枝藩にまで及んだ。


藩主が水戸藩の一橋派と密かに連絡を取っていたことを示す書状が発見されたのである。


さらに藩財政の不正や幕府への虚偽報告が摘発された。


三枝藩は改易。


藩主は身柄を預けられ、家臣たちは禄を失った。


小野寺重房は、藩主の政治活動を主導した責任を問われた。


そして、その娘。


小野寺光。


十九歳。


彼女の人生も、その日を境に一変した。


「父上……どうなるのですか」


光は屋敷の奥で父に尋ねた。


重房は静かに答えた。


「お前は京へ行け」


「京へ?」


「知己の者がいる。

 そこで身を隠すのだ」


「父上は?」


「わしには、まだ果たさねばならぬ務めがある」


「私も残ります」


「ならぬ」


父の声は厳しかった。


「お前まで罪を負う必要はない」


「でも……」


重房は娘の手に小さな守り袋を握らせた。


三枝家の家紋が刺繍されている。


「これを持って行け」


「父上……」


「光」


「はい」


「家がなくなっても、お前までなくなるわけではない」


それが、父と交わした最後の言葉となった。


三枝藩は1859年(安政6年)に改易された川成島藩をモデルにしました。

13代将軍徳川家定の後継者をめぐる政治抗争が改易理由とされている。

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