シーン7 置屋・夜
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
佐々木源吾
新選組の隊員。
その夜。
由太は布団に入ろうとしていた。
由太:
「静さん」
静:
「何だ」
由太:
「今日さ」
静:
「ああ」
由太:
「俺のこと『私の男』って言ったよね」
静:
「……」
由太:
「言ったよね?」
静:
「覚えていない」
由太:
「絶対言った」
静:
「寝ろ」
由太:
「『私の男を笑ってよいとは言っていない』って」
静:
「……」
由太:
「俺、静さんの男なんだ」
静:
「あれは相手を挑発するためだ」
由太:
「じゃあ違うの?」
静:
「お前は――」
静が少し考える。
由太は期待した顔で待つ。
静:
「私のヒモだ」
由太:
「そっち!?」
静:
「不満か」
由太:
「……いや」
静:
「なら寝ろ」
由太:
「静さん」
静:
「まだ何かあるのか」
由太:
「俺、静さんに飼われててよかった」
静:
「なぜ」
由太:
「強いし」
静:
「ああ」
由太:
「美人だし」
静:
「……」
由太:
「飯代出してくれるし」
静:
「最後の一言がなければよかったのだがな」
由太:
「小遣いも――」
静:
「減らすぞ」
由太:
「おやすみなさい!」
布団を被る。
静:
「まったく……」
灯りを消そうとして、静が止まる。
静:
「由太」
布団の中から声。
由太:
「何?」
静:
「今日、お前を守ったのは――」
由太:
「飼い主だから?」
静:
「……そういうことにしておけ」
由太:
「うん」
静が灯りを消す。
---
翌日。
由太は町で佐々木源吾に会った。
源吾:
「聞いたぞ」
由太:
「何を?」
源吾:
「昨日、浪士四人が何者かに叩きのめされたそうだ」
由太:
「ああ」
源吾:
「知っているのか」
由太:
「静さん」
源吾の顔が固まる。
源吾:
「……神無月静が?」
由太:
「うん」
源吾:
「四人を?」
由太:
「うん」
源吾はしばらく黙った。
源吾:
「由太」
由太:
「何?」
源吾:
「絶対にあの女を怒らせるな」
由太:
「毎日怒らせてる」
源吾:
「よく生きているな、お前」
由太:
「飼われてるからね」
源吾:
「それで説明がつくのか……?」
由太は団子を一口食べる。
由太:
「でも、昨日分かったよ」
源吾:
「何が」
由太:
「静さんが強い理由」
源吾:
「ほう」
由太:
「俺を守るため」
源吾:
「絶対違うと思うぞ」
由太:
「そうかな?」
その頃。
少し離れた場所で、静が二人の会話を聞いていた。
静:
「……馬鹿者」
そう呟きながらも。
その口元は、わずかに笑っていた。
> 神無月静、二十六歳。
>
> 女間者として情報を操り、
> 剣を取れば複数の浪士を相手に退かず、
> 必要なら命を奪う覚悟も持つ武芸者。
>
> そんな彼女が最も手を焼いた相手は――
>
> 剣豪でも、
> 新選組でも、
> 幕府でもなかった。
>
> **自分が拾った十九歳のヒモだった。**
外伝6、お読みいただきありがとうございます。
今後も、メインストーリーとは離れた、由太が引き起こすエピソードを書いていきます。
また、感想若しくは評価をいただけると光栄です。
よろしくお願いいたします




