シーン5 道・静の回想
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
仕事を終えた帰り道。
由太が静の腕に布を巻いている。
由太:
「痛くない?」
静:
「痛い」
由太:
「珍しく正直」
静:
「痛いものは痛い」
由太:
「誰に習ったの?」
静:
「剣か?」
由太:
「うん」
静は少し黙った。
静:
「父だ」
由太:
「お父さん?」
静:
「ああ」
静の父は小さな道場で剣を教えていた。
男子と同じように静にも木刀を持たせた。
静:
「最初は護身のためだった」
由太:
「それがどうしてあんなに強くなるの」
静:
「負けるのが嫌いだった」
由太:
「ああ」
静:
「何だ、その納得した顔は」
由太:
「静さんらしい」
静:
「黙れ」
由太:
「でもさ」
静:
「何だ」
由太:
「人を斬らなかったね」
静は由太を見る。
由太:
「四人とも」
静:
「斬る必要がなかった」
由太:
「必要だったら?」
静:
「斬る」
即答。
由太:
「……怖」
静:
「嫌になったか」
由太:
「何が?」
静:
「こんな女に飼われるのが」
由太は考える。
由太:
「逆」
静:
「逆?」
由太:
「安心した」
静:
「なぜ」
由太:
「俺、喧嘩弱いから」
静:
「……」
由太:
「これからも守ってもらえる」
静:
「お前という男は……」
由太:
「お願いします」
静:
「少しは自分で強くなろうと思わんのか」
由太:
「静さんより強くなるの、何年かかる?」
静:
「十年でも無理だろうな」
由太:
「じゃあ諦める」
静:
「努力という言葉を知らんのか!」




