シーン4 伏見へ向かう道・夕刻
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
浪人A、B、C、D
伏見へ向かう道。
日が落ち始めている。
静が突然、足を止めた。
由太:
「どうしたの?」
静:
「由太」
由太:
「うん」
静:
「私の後ろへ」
由太:
「え?」
静:
「早く」
声が違う。
由太は黙って静の背後へ回る。
静:
「いつからつけている」
返事はない。
静:
「出てこい」
やがて――。
三人の男が姿を現した。
浪士A:
「さすがだな」
浪士B:
「神無月静」
浪士C:
「書状を渡せ」
由太:
「本当に来た……」
静:
「由太」
由太:
「何?」
静:
「下がっていろ」
由太:
「うん」
由太は素直に十歩ほど下がる。
静:
「もっとだ」
さらに十歩。
静:
「もう少し」
由太:
「俺、どこまで行けばいいの!?」
浪士A:
「随分と頼りない連れだな」
静:
「連れではない」
由太:
「飼われてます!」
静:
「黙れ!」
浪士B:
「ヒモか?」
由太:
「はい!」
静:
「なぜ胸を張る!」
浪士たちが笑う。
浪士A:
「そんな男を連れて歩くとは、お前も落ちたものだ」
静:
「そうかもしれんな」
由太:
「静さん!?」
静の右手が、刀の柄に触れた。
静:
「だが――」
空気が変わった。
静:
「私の男を笑ってよいとは言っていない」
由太:
「……」
浪士たちから笑みが消える。
由太:
「静さん」
静:
「何だ」
由太:
「今のもう一回言って」
静:
「斬るぞ」
由太:
「黙ります」
浪士Aが刀を抜く。
浪士B、Cも続く。
三対二。
いや、三対一。
由太:
「静さん……」
静:
「動くな」
由太:
「でも三人だよ」
静:
「三人しかいない」
由太:
「……え?」
浪士A:
「言ったな!」
男が踏み込む。
速い。
由太にはそう見えた。
だが――。
静はさらに速かった。
鞘走りの音。
キンッ!
男の刀が跳ね上がる。
浪士A:
「なっ――」
静の刀はすでに男の喉元にある。
しかし斬らない。
柄頭で男の顎を打つ。
浪士A:
「ぐっ!」
倒れる。
浪士B:
「貴様!」
二人目が横から斬り込む。
静は半歩だけ退く。
刃が鼻先を通過。
次の瞬間。
静の足が男の膝裏を払う。
浪士B:
「うわっ!」
体勢が崩れる。
静は刀の峰を男の手首へ叩きつける。
刀が落ちる。
静:
「二人」
由太:
「数えてる……」
三人目。
浪士Cは動かない。
静:
「どうした」
浪士C:
「……」
静:
「来ないなら、こちらから行く」
浪士C:
「舐めるな!」
突進する。
上段。
刀が振り下ろされる。
静は避けない。
由太:
「静さん!」
ガキン!
静の刀が相手の刀を受け流す。
身体を入れ替える。
浪士Cが振り向いた時には――
刀が首筋に当たっていた。
静:
「三人」
浪士C:
「……」
静:
「終わりだ」
由太:
「……」
由太は口を開けたまま固まっている。
静:
「由太」
返事がない。
静:
「由太」
由太:
「……はい」
静:
「行くぞ」
由太:
「静さん」
静:
「何だ」
由太:
「強かったんだね」
静:
「今さらか」
由太:
「俺、静さんが戦ってるところ、ちゃんと見たことなかったから」
静:
「見せる必要もない」
由太:
「格好よかった」
静の動きが一瞬止まる。
静:
「……そうか」
由太:
「うん」
静:
「では行くぞ」
由太:
「照れてる?」
静:
「置いていくぞ」
由太:
「待って!」
その時。
静が再び止まった。
由太:
「?」
静:
「伏せろ!」
由太:
「え?」
静が由太を突き飛ばす。
直後――。
シュッ!
短刀が飛んできた。
静の袖を切り裂く。
由太:
「静さん!」
四人目。
木陰に隠れていた男。
浪士D:
「油断したな」
静の左腕から血が流れる。
由太:
「怪我してる!」
静:
「かすり傷だ」
浪士D:
「書状を渡せ!」
静:
「断る」
男が構える。
由太は地面に転がったまま周囲を見る。
近くに――。
先ほど倒れた浪士の鞘。
由太は拾う。
静:
「由太、動くな!」
由太:
「分かってる!」
浪士Dが静へ踏み込む。
由太:
「えい!」
鞘を投げる。
全然違う方向へ飛んでいく。
由太:
「あ」
浪士D:
「……」
静:
「……」
由太:
「ごめん」
しかし。
男が一瞬だけ由太を見た。
それで十分だった。
静が懐へ入る。
一閃。
男の刀が地面へ落ちる。
次の瞬間、静の刀が男の胸元で止まった。
静:
「四人目」
浪士D:
「……参った」
静:
「最初からそう言えばよかった」




