シーン1 置屋・朝
(登場人物)
青井由太
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。
神無月静
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。
お光
静と同い年の芸妓。明るく世話好きで噂好き。由太を弟分として可愛がっている。
置屋の朝。
いつものように、由太が朝餉を作っている。
トントントントン。
静:
「由太」
由太:
「何?」
静:
「朝からうるさい」
由太:
「大根に言って」
静:
「お前が切っているのだろう」
由太:
「じゃあ一本のまま――」
静:
「切れ」
由太:
「はいはい」
そこへ、お光が入ってくる。
お光:
「おはよー!」
由太:
「朝飯食べる?」
お光:
「食べる!」
静:
「お前も少しは遠慮しろ」
お光は座ると、肩を揉んだ。
お光:
「あー、疲れた」
由太:
「肩凝ってるの?」
お光:
「昨日ずっとお座敷だったからね」
由太:
「温泉でも行けば?」
お光:
「温泉?」
由太:
「うん。江戸にいた頃、聞いたことある。温泉って疲れが取れるんでしょ?」
静:
「まあな」
由太:
「怪我にもいいって聞いた」
お光:
「湯治ってやつね」
由太の包丁が止まる。
由太:
「……静さん」
静:
「何だ」
由太:
「温泉行こうよ」
静:
「嫌だ」
由太:
「まだ何も説明してない!」
静:
「お前の顔を見れば分かる」
由太:
「何が?」
静:
「遊びたいだけだろう」
由太:
「違うよ」
静:
「では何だ」
由太:
「静さん、最近疲れてるじゃん」
静:
「……」
由太:
「夜遅いし、肩も痛そうだし」
静:
「よく見ているな」
由太:
「ヒモは飼い主の体調管理も仕事だから」
お光:
「もっともらしいこと言ってる」
由太:
「だから二人で温泉行こう」
静:
「なぜ二人なのだ」
由太:
「俺も疲れてるから」
静:
「何に」
由太:
「家事」
静:
「却下」
由太:
「即答!?」
お光:
「じゃあ私も行こうかな」
由太:
「お光さんは留守番」
お光:
「なんでよ!」
静:
「なるほど」
由太:
「何?」
静:
「目的が分かった」
由太:
「……」
静:
「私と二人で温泉へ行きたいだけだな」
由太:
「……半分くらい」
静:
「残り半分は?」
由太:
「温泉入りたい」
静:
「全部自分のためではないか」




