シーン6 置屋・玄関 同夜
【登場人物】
青井 由太/19歳
江戸の裏長屋育ち。働くことは苦手だが、炊事・洗濯・掃除など生活能力は高い。
「女性に養ってもらう代わりに、その女性の生活を支える」という独自のヒモ哲学を持つ。
本人に歴史を変える意図はまったくないのに、何気ない親切や行動が幕末の重大事件を微妙に動かしてしまう。
神無月 静/26歳
白拍子・芸妓として活動する一方、裏では倒幕派に関係する女間者。剣術にも優れる。
由太を拾って「衣食住を与える代わりに家事を任せる」という関係になる。
由太より7歳年上で、基本的には姉・保護者・雇い主のような立場だが、次第に由太を対等な相棒として見るようになる。
隊士A,B
(新選組隊士A/Bが立っている。両者、柄に手がかかるかかからないか、微妙な緊張)
静:
「お待たせしました。神無月静です」
隊士A:
「やぁ、噂の。
近頃、祇園だけじゃなく、寺町あたりにも顔を出してるとか」
静:
「客が呼べば、どこへでも参ります。
それが芸者の務めにございますゆえ」
隊士B:
「その客ってのが、どうも怪しい浪士どもらしくてね」
(静、微笑みを崩さず)
静:
「浪士も武家の方々も、私には同じ“お客様”でございます。
新選組の皆さまだって、たまにお見えでしょう?」
(隊士A、少しだけ頬を赤らめる)
隊士A:
「……まぁ、な」
隊士B:
「副長は、“中立を装う者ほど一番怪しい”と仰っててな」
静:
「副長様は、きっと正しいのでしょう。
ただ、私はただの芸者。歌をうたい、舞を舞うしかできない女です」
(静の目が一瞬だけ冷たく光る)
静:
「人を斬ることなど、私にはとても」
(隊士B、その目つきに気付き、ほんの少し身構える)
隊士B:
(小声で)
「……あの目、本当にただの芸者か?」
隊士A:
「わからん。
だが――副長の言う通り、“怪しい”からこそ見張る価値がある」
(隊士たち、踵を返し去っていく)
静:
(小さく息を吐く)
「……面倒な風が吹き始めた」
(背後から)
由太:
「ただいまー。
あれ? 玄関で物騒な気配してたけど……お客?」
静:
「お前は、奥にいろと言った覚えは?」
由太:
「言ってない。
それに、炊事場と部屋、行き来しないと味噌汁が作れないし」
静:
「……味噌汁?」
由太:
「できたよ。鴨川で拾われ記念・初炊事」
(由太、ニコッと笑う)
静:
(思わず、表情がほどける)
「……行く」




