シーン5 置屋・夜
【登場人物】
青井由太
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。
夜。
由太は静の前に座った。
静:
「何だ。改まって」
由太:
「話があります」
静:
「珍しいな」
由太:
「俺の身の振り方、決めました」
静の表情がわずかに曇る。
静:
「……そうか」
由太:
「はい」
静:
「どこへ行く」
由太:
「どこにも行かない」
静:
「何?」
由太:
「ここにいる」
静:
「由太」
由太:
「これからも静さんに養ってもらいます」
静:
「……」
由太:
「よろしくお願いします」
頭を下げる。
静:
「待て」
由太:
「何?」
静:
「お前は何日考えて、その結論に至った」
由太:
「三日」
静:
「三日考えて、結局ヒモを続けるのか!」
由太:
「うん」
静:
「吉田殿から新政府へ誘われたと聞いたぞ」
由太:
「断った」
静:
「なぜ!」
由太:
「働きたくないから」
静:
「……」
由太:
「半分は」
静:
「残り半分は何だ」
由太は静を見る。
由太:
「静さんといたいから」
静が黙る。
由太:
「俺さ」
静:
「……」
由太:
「昔は誰でもよかったんだ」
静:
「何が」
由太:
「綺麗で、年上で、飯食わせてくれて、小遣いくれる女の人なら」
静:
「最低だな」
由太:
「うん」
静:
「自覚はあるのか」
由太:
「今は違う」
静:
「何が違う」
由太:
「静さんじゃないと嫌だ」
沈黙。
由太:
「他の人にもっと小遣い出すって言われても」
静:
「……」
由太:
「もっといい家に住ませてやるって言われても」
静:
「……」
由太:
「静さんのところがいい」
静:
「それは……」
由太:
「依存してる?」
静:
「かなりな」
由太:
「駄目?」
静は答えない。
由太:
「やっぱり迷惑?」
静:
「……いや」
由太:
「じゃあ」
静:
「私も困る」
由太:
「何が?」
静:
「お前がいなくなると」
由太が目を丸くする。
静:
「飯を作る者がいなくなる」
由太:
「うん」
静:
「洗濯する者も」
由太:
「うん」
静:
「部屋を片付ける者も」
由太:
「うん」
静:
「帰った時に『お帰り』と言う者もいなくなる」
由太:
「……」
静:
「だから」
静は由太から目を逸らす。
静:
「お前が勝手に出ていくのは困る」
由太の顔がほころぶ。
由太:
「それって」
静:
「勘違いするな」
由太:
「静さんも俺に依存してる?」
静:
「していない」
由太:
「してるじゃん」
静:
「していない」
由太:
「してる」
静:
「小遣いを減らすぞ」
由太:
「それは困る!」
静:
「なら黙れ」
由太:
「はい」
少し間を置いて。
由太:
「じゃあ、これからも飼ってくれる?」
静はため息をついた。
静:
「仕方ない」
由太:
「やった!」
静:
「ただし条件がある」
由太:
「何?」
静:
「家事を怠るな」
由太:
「もちろん」
静:
「勝手に危険なことをするな」
由太:
「努力します」
静:
「小遣いを団子だけで使うな」
由太:
「努力します」
静:
「そこは約束しろ」
由太:
「……善処します」
静:
「由太」
由太:
「はい!」




