シーン4 置屋・明治
【登場人物】
青井由太
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。
吉田稔麿
長州藩士。京で活動する尊王攘夷派の中心人物の一人。池田屋事件で死亡したとされているが、、、
時代が変わるにつれ、由太の知り合いたちも京を離れ始めた。
ある者は新政府へ。
ある者は故郷へ。
ある者は戦場へ。
そして、由太がかつて池田屋の夜に助けた吉田稔麿もまた、新しい時代へ向かって歩き始めていた。
吉田:
「由太」
由太:
「はい」
吉田:
「東京へ来る気はないか」
由太:
「東京?」
吉田:
「これから新しい政府には、多くの人間が必要になる」
由太:
「俺、政治分かりませんよ」
吉田:
「政治を知らないからこそ、君のような人間が必要なのかもしれん」
由太:
「俺みたいな?」
吉田:
「薩摩とも長州とも新選組とも町人とも話せる男など、そうはいない」
由太:
「俺、普通に喋ってただけですよ」
吉田:
「それができないから、我々は長い間争ってきた」
由太:
「……」
吉田:
「君なら、新しい時代で何者かになれる」
由太:
「何者か……」
吉田:
「ああ」
由太は考える。
吉田:
「返事は急がない」
由太:
「いや」
吉田:
「?」
由太:
「行きません」
吉田:
「……即答か」
由太:
「俺、偉くなりたくないんで」
吉田:
「そうか」
由太:
「それに」
吉田:
「何だ」
由太:
「静さん、放っておくと三日くらい同じ着物着るから」
吉田:
「……」
由太:
「俺がいないと駄目なんです」
吉田はしばらく黙り――。
やがて笑った。
吉田:
「なるほど」
由太:
「はい」
吉田:
「それも、一つの生き方か」




