シーン1 置屋
【登場人物】
青井由太
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。
慶応三年。
京の町は、以前とは違う騒がしさに包まれていた。
大政奉還。
将軍が政権を朝廷へ返した。
幕府という大きな仕組みが、その役目を終えようとしていた。
武士たちは自分たちの行く末を語り、
商人たちは新しい商売の話をし、
志士たちは新しい国の形を論じていた。
そして――。
由太:
「静さん」
静:
「何だ」
由太:
「米なくなった」
静:
「買ってこい」
由太:
「お金」
静:
「昨日渡しただろう」
由太:
「あれ使った」
静:
「何に」
由太:
「団子」
静:
「……」
由太:
「あと、お光さんに甘酒」
静:
「……」
由太:
「怒ってる?」
静:
「由太」
由太:
「はい」
静:
「世の中は今、大きく変わろうとしている」
由太:
「うん」
静:
「幕府がなくなるかもしれん」
由太:
「うん」
静:
「新しい国が生まれるかもしれん」
由太:
「うん」
静:
「その時代の転換点で、お前はなぜ団子に生活費を使う」
由太:
「団子屋のおばちゃんが『今日だけ一本おまけ』って」
静:
「三日、小遣いなし」
由太:
「横暴!」
時代は変わる。
しかし。
この二人は、あまり変わっていなかった。




