シーン5 豆腐屋 明け方
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
吉田稔麿(23)
長州藩士。京で活動する尊王攘夷派の中心人物の一人。池田屋事件で死亡したとされているが、、、
明け方。
由太は静を豆腐屋へ連れてきた。
静:
「由太」
由太:
「なに」
静:
「なぜ私が帰った瞬間に『怪我人を拾った』という話になる」
由太:
「拾ったというか」
静:
「何だ」
由太:
「落ちてた」
静:
「人を犬猫のように言うな」
物置。
静が吉田の顔を見る。
表情が変わる。
静:
「……吉田稔麿」
由太:
「知ってる人?」
静:
「長州の志士だ」
由太:
「偉い人?」
静:
「松下村塾の四天王の一人と言われている」
由太:
「村か村塾?」
吉田:
「神無月静か」
静:
「会ったことはありませんよね」
吉田:
「桂さんから聞いている」
静:
「……桂殿から?」
吉田は由太を見る。
吉田:
「妙な若者を飼っている女がいる、と」
静:
「桂殿……」
由太:
「有名になってる」
静:
「喜ぶな」
吉田が咳き込む。
静:
「傷を見せてください」
吉田:
「私はもう……」
静:
「死にたいなら池田屋に戻ればいい」
吉田:
「……」
静:
「ここまで逃げた以上、生きなさい」
由太:
「そうそう」
吉田:
「君に言われると軽いな」
由太:
「生きるって案外そういうものじゃない?」
吉田:
「……」
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### 第五場 死ぬはずだった男
静は傷を処置する。
幸い、脇腹の傷は深く見えたが内臓までは達していなかった。
静:
「運が良い」
吉田:
「そうか」
静:
「少しずれていれば死んでいました」
由太:
「じゃあ助かる?」
静:
「安静にしていれば」
吉田は天井を見る。
吉田:
「池田屋の同志たちは」
静は答えない。
それで吉田は理解した。
吉田:
「……そうか」
拳を握る。
由太は何も言わない。
吉田:
「なぜ私だけ」
由太:
「何が」
吉田:
「なぜ私だけ生きた」
由太:
「知らない」
吉田:
「……」
由太:
「でもさ」
吉田:
「何だ」
由太:
「死ぬ理由がないなら、生きればいいんじゃない?」
吉田:
「同志が死んだ」
由太:
「うん」
吉田:
「私だけ逃げた」
由太:
「うん」
吉田:
「恥ではないのか」
由太:
「それ俺に聞く?」
吉田:
「何?」
由太:
「俺、働かずに女の人に養ってもらってるんだよ」
静:
「胸を張るな」
由太:
「世間から見たら、俺の方がよっぽど恥ずかしいでしょ」
吉田は一瞬呆れ――。
小さく笑った。
吉田:
「……君は不思議な男だな」
由太:
「よく言われる」
吉田:
「だが」
吉田は目を閉じた。
吉田:
「少しだけ、生きてもいい気がしてきた」




