シーン1 置屋・朝
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
お光(26)
静と同い年の芸妓。明るく世話好きで噂好き。由太を弟分として可愛がっている。
朝。
炊事場から包丁の音が聞こえる。
トントントントン。
由太:
「静さーん、今日は湯豆腐でいい?」
返事がない。
由太:
「静さん?」
静の部屋を覗く。
布団は畳まれている。
机の上も整っている。
だが、静の姿はない。
由太:
「……早いな」
そこへ、お光が入ってくる。
お光:
「由太!」
由太:
「お光さん。朝ご飯食べる?」
お光:
「それどころじゃない!」
由太の手が止まる。
お光:
「静、帰ってないの?」
由太:
「え?」
お光:
「昨夜から」
由太:
「昨日の夜、仕事に行ったけど……」
お光:
「何時?」
由太:
「戌の刻くらい」
お光:
「やっぱり……」
由太:
「何?」
お光は黙る。
由太:
「お光さん」
お光:
「……昨日、静は人に会いに行ったの」
由太:
「誰?」
お光:
「土佐の人」
由太:
「武市さん?」
お光:
「違う」
由太:
「じゃあ誰?」
お光:
「武市先生と対立してる人たち」
由太の表情が変わる。
由太:
「なんでそんな人に会いに行ったの?」
お光:
「探りを入れるため」
由太:
「一人で?」
お光:
「……うん」
由太:
「なんで止めなかったの」
お光:
「止めたよ!」
由太:
「じゃあなんで――」
お光:
「静が聞くと思う!?」
由太は言葉を失う。
確かに。
由太:
「……聞かないね」
お光:
「でしょ」
沈黙。
お光:
「今朝、噂が入った」
由太:
「何の?」
お光:
「女の間者が捕まったって」
由太の顔から血の気が引く。
由太:
「……誰に」
お光:
「まだ分からない」
由太:
「どこ?」
お光:
「それも」
由太:
「何にも分からないじゃん!」
お光:
「だから調べてるの!」
由太は炊事場へ戻る。
お光:
「由太?」
由太は火を消す。
鍋の蓋を閉じる。
由太:
「お光さん」
お光:
「なに」
由太:
「これ、昼に食べて」
お光:
「……何する気?」
由太:
「静さん探してくる」
お光:
「駄目」
由太:
「なんで」
お光:
「あんたは関係ない」
由太:
「関係あるよ」
お光:
「これは遊びじゃないの!」
由太:
「知ってる」
お光:
「捕まったら、あんたまで殺されるかもしれない!」
由太:
「知ってる」
お光:
「じゃあ――」
由太:
「静さんが死んだら」
お光が黙る。
由太:
「俺、誰に養ってもらえばいいの」
お光:
「……」
由太:
「だから探す」
お光:
「由太」
由太:
「半分冗談」
お光:
「残り半分は?」
由太:
「言わない」
由太は草履を履く。
お光:
「由太!」
由太:
「大丈夫」
お光:
「何が!」
由太:
「俺、戦えないから」
お光:
「それが一番心配なの!」
由太:
「だから戦わない」
お光:
「……?」
由太:
「俺には俺のやり方がある」
その顔には、いつもの軽さがなかった。




