シーン10 置屋・深夜
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
由太は腰に湿布を貼って座っている。
静は味噌汁を飲む。
由太:
「どう?」
静:
「薄い」
由太:
「今日は疲れてるから、それくらいがいいよ」
静:
「勝手に決めるな」
由太:
「でも飲むんでしょ?」
静:
「……飲む」
沈黙。
静:
「由太」
由太:
「なに」
静:
「なぜ止めた」
由太:
「何を?」
静:
「私を」
由太は少し考える。
由太:
「静さんが人を殺したらさ」
静:
「……」
由太:
「たぶん、静さんは帰ってくる」
静:
「ああ」
由太:
「でも、今までと同じ静さんでは帰ってこない気がした」
静は何も言わない。
由太:
「それが嫌だった」
静:
「私は間者だ」
由太:
「知ってる」
静:
「今後、人を斬ることもある」
由太:
「その時はその時」
静:
「今日のように止めるのか」
由太:
「止められそうなら」
静:
「……困ったヒモだ」
由太:
「飼い主を大事にするのはヒモの基本です」
静:
「そんな基本は聞いたことがない」
由太:
「俺が今作った」
静が笑う。
ほんの少しだけ。
静:
「由太」
由太:
「ん?」
静:
「ありがとう」
由太が固まる。
由太:
「……今なんて?」
静:
「二度は言わん」
由太:
「もう一回!」
静:
「寝ろ」
由太:
「静さんがありがとうって言った!」
静:
「寝ろ!」




