シーン8 屋敷内
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
男・武市半平太(35)
土佐藩士。京で活動する尊王攘夷派の中心人物の一人。
浪人
その時、屋敷の中から声。
侍:
「御用人様を避難させろ!」
標的が移動を始める。
暗がりの浪士たちも動く。
静:
「まずい」
由太:
「逃げるんだよね?」
静:
「黙っていろ」
由太は周囲を見る。
火。
逃げ惑う人。
水桶。
荷車。
そして――。
由太:
「……あ」
路地に置かれた大八車。
由太:
「静さん」
静:
「何だ」
由太:
「ちょっとだけ俺を信じて」
静:
「何をする気だ」
由太:
「人を殺さない方法」
由太は走る。
静:
「由太!」
大八車へ飛びつく。
積まれているのは消火用の水桶。
由太:
「すみませーん! 借ります!」
町人:
「何すんだ!」
由太が車止めを外す。
坂道。
大八車が動き出す。
由太:
「うわ、思ったより速い!」
町人:
「止めろ!」
由太:
「止まらない!」
静:
「馬鹿!」
大八車は屋敷の裏門方向へ突進する。
そこには暗殺者たち。
浪士:
「何だ!?」
ガラガラガラガラ!
浪士たちは慌てて飛び退く。
大八車が横倒しになる。
水桶が割れる。
大量の水が路地に広がる。
暗殺者たちの足元が崩れる。
浪士:
「くそ!」
さらに騒ぎを聞いた警護の侍たちが集まってくる。
侍:
「何事だ!」
浪士たちは攻撃どころではなくなる。
武市半平太:
「退くぞ。ここで無益な血を流せば、我らの志そのものが疑われる」
浪士:
「しかし標的が!」
武市半平太:
「これ以上やれば全員捕まる!」
浪士たちは闇へ消える。
標的の要人はそのまま別方向へ避難。
暗殺計画は失敗した。




