シーン7 屋敷前
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
侍
静が屋敷へ近づく。
警護の侍:
「止まれ!」
静:
「私は神無月静と申します」
侍:
「何用だ」
静:
「この火事でしょう? 御方様が心配になりまして」
侍:
「今は誰も通せん」
静:
「困りましたね」
静が微笑む。
その時――。
由太:
「静さーーーん!」
静:
「……!」
由太が全力疾走してくる。
侍:
「何者だ!」
由太:
「すみません! うちの人です!」
静:
「由太!?」
由太:
「探したんだよ!」
静:
「なぜここにいる!」
由太:
「だって火事だよ!」
静:
「帰れ!」
由太:
「嫌だ!」
侍たちは顔を見合わせる。
侍:
「知り合いか?」
静:
「……」
由太:
「飼い主です!」
侍:
「飼い主?」
静:
「黙れ!」
由太:
「俺、静さんに養ってもらってるんです!」
侍:
「……」
静:
「違う!」
由太:
「違わないでしょ!」
静:
「今説明する必要があるか!」
由太:
「あるよ!」
侍の一人が吹き出す。
侍:
「……お前、ヒモか?」
由太:
「はい!」
静:
「胸を張るな!」
その一瞬。
由太は屋敷の裏手を見る。
暗がりに浪士の影。
由太は理解する。
静:
「由太、帰れ」
由太:
「静さん」
静:
「何だ」
由太:
「俺、腹減った」
静:
「……は?」
由太:
「夕飯まだ」
静:
「こんな時に何を――」
由太:
「帰ろ」
静:
「由太」
由太:
「味噌汁作るから」
静:
「帰れと言っている」
由太:
「じゃあ静さんも一緒に帰ろ」
静:
「できない」
由太:
「なんで」
静:
「仕事だ」
由太:
「人を殺す仕事?」
静の表情が凍る。
静:
「……どこで聞いた」
由太:
「聞いた」
静:
「忘れろ」
由太:
「嫌だ」
静:
「由太」
由太:
「静さんが人を殺すの、見たくない」
静:
「これは私の仕事だ」
由太:
「それでも嫌だ」
静:
「お前には関係ない!」
由太は一瞬、黙る。
由太:
「関係あるよ」
静:
「何が」
由太:
「静さんが帰ってこなかったら、誰が俺養うの」
静:
「……」
由太:
「それに」
少し声が小さくなる。
由太:
「人殺した後の静さんに、俺、どんな味噌汁出せばいいのか分からない」
静:
「……由太」




