シーン2 町家・密室
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
男・武市半平太(35)
土佐藩士。京で活動する尊王攘夷派の中心人物の一人。
浪人
町の喧騒から少し離れた町家。
静を含む四人の男女が集まっている。
卓上には京の簡単な絵図。
男・武市半平太:
「火勢は想定以上だ。だが、これを好機と見る者もいる」
浪士:
「好都合だ」
静:
「好都合?」
浪士:
「町方も新選組も消火に人を取られている。今夜なら警護が薄い」
静は絵図を見つめる。
丸がついている屋敷が一つ。
標的は幕府側の要人。
京の政局に大きな影響力を持つ人物だった。
浪士:
「奴を斬れば、幕府方の動きは鈍る」
静:
「しかし火事は予定になかった」
武市半平太:
「だからこそ機会だ」
静:
「町人が逃げ惑っている最中にか」
浪士:
「これは戦だ」
静:
「まだ戦ではない」
浪士:
「すでに戦だ」
静の目が細くなる。
武市半平太:
「神無月殿」
静:
「何だ」
武市半平太:
「あなたに頼みたい。屋敷へ自然に近づける者は、今の我々にはあなたしかいない」
静:
「……」
武市半平太:
「奴の屋敷に自然に近づけるのは、あなたしかいない」
静:
「芸妓としてか」
武市半平太:
「そうです」
浪士:
「警護を引きつけてくれればいい。その後はこちらでやる」
静:
「……殺すのは」
浪士:
「我々だ」
静:
「本当だな」
浪士:
「何をためらっている」
静:
「ためらってはいない」
浪士:
「なら決まりだ」
静は答えなかった。
ただ、絵図上の屋敷を見つめていた。




