シーン2 京都・鴨川べり 夕方
【登場人物】
青井 由太/19歳
江戸の裏長屋育ち。働くことは苦手だが、炊事・洗濯・掃除など生活能力は高い。
「女性に養ってもらう代わりに、その女性の生活を支える」という独自のヒモ哲学を持つ。
本人に歴史を変える意図はまったくないのに、何気ない親切や行動が幕末の重大事件を微妙に動かしてしまう。
神無月 静/26歳
白拍子・芸妓として活動する一方、裏では倒幕派に関係する女間者。剣術にも優れる。
由太を拾って「衣食住を与える代わりに家事を任せる」という関係になる。
由太より7歳年上で、基本的には姉・保護者・雇い主のような立場だが、次第に由太を対等な相棒として見るようになる。
(夕焼け。鴨川。ボロボロの身なりの由太が橋の下で倒れている)
由太:
「……腹、減った……。
京都来たのはいいけど……女どころか、飯にもありつけねぇ」
(通り過ぎる人々。誰も見向きしない)
由太:
>江戸から京まで、ふらふら歩き続けて三日。
>だんごの匂いがしたと思ったら夢だった。
>もう、動きたくねぇ……。
(視界がぼやける。そこへ白い足袋の足が近づく)
???(女の声):
「おい」
(由太の視界に、裾の長い白い着物。上に薄紫の羽織。腰には刀)
由太:
「……あの世の使い?」
???:
「生きたまま三途の川は渡れん。
ここは鴨川だ」
(しゃがみ込む。顔が映る。静、美しいが眼光鋭い)
静:
「腹は?」
由太:
「……減ってます。すごく」
静:
「名は?」
由太:
「青井由太。職業、見習いヒモ」
静:
「……」
(小さく吹き出す)
静:
「中々に見どころがあるな、お前」
(静、懐から握り飯を取り出す)
静:
「食うか」
由太:
「……罠じゃない?」
静:
「罠なら、とっくに川に沈めている。食え」
(由太、奪うようにして食べる)
由太:
「うま……っ! 何これ、塩がちゃんとしてる……!」
静:
「塩に“ちゃんと”も“ちゃんとしていない”もない」
由太:
「あるよ! 安い塩はしょっぱいだけで、旨みがないんだってば」
(静、興味深そうに由太を見つめる)
静:
「食い物にうるさいな。
……で、働き口は?」
由太:
「ありません。というか、働きたくありません」
静:
「胸を張って言うことではない」
由太:
「誰か優しい女性が、飯と寝床とちょっとした小遣いをくれて、
俺は掃除と炊事と洗濯をして……。
そういう関係、募集中」
静:
「それを世間では――」
由太:
「“ヒモ”って言います。俺、“ヒモ男児”目指してるんで」
(静、ふっと笑う。その笑みはどこか寂しげ)
静:
「……面白い。付いて来い」
由太:
「え?」
静:
「飯と寝床と、少しの銭。
代わりに家事を一切、引き受けるか?」
由太:
「引き受けます! 今すぐ契約します!!」
静:
「では――」
(静、由太に右手を差し出す)
静:
「神無月 静。
今日からお前の“飼い主”だ」
(由太、ぽかんとしながら手を握る)
由太:
「……はい、よろしくお願いします、飼い主様」
(夕陽の中、二人のシルエット。音楽高まる)




