シーン8 置屋・深夜
(登場人物)
青井由太(19)
江戸から京都へ流れ着き、静に拾われた青年。働くことは嫌いだが、料理・洗濯・掃除は得意。年上女性に可愛がられる才能と、本人に自覚のない情報収集能力を持つ。
神無月静(26)
由太の「飼い主」。表向きは花街で生きる女性だが、裏では倒幕派に関係する女間者。剣の腕も立つ。
お光(26)
静と同い年の芸妓。明るく世話好きで噂好き。由太を弟分として可愛がっている。
桂小五郎(31)
長州藩士。京で活動する尊王攘夷派の中心人物の一人。
由太は布団で眠っている。
静とお光は隣室。
お光:
「ねえ静」
静:
「なんだ」
お光:
「由太、本当にただのヒモ?」
静:
「本人はそのつもりだ」
お光:
「今日だけで新選組の探索状況を調べて、長州の動きを拾って、桂小五郎本人に警告したんでしょ?」
静:
「ああ」
お光:
「それって……」
静:
「一流の間者でも難しい」
お光:
「じゃあ天才?」
静:
「違う」
お光:
「何が?」
静:
「天才は、自分が何をしているか理解している」
二人は隣室を見る。
由太の寝言。
由太:
「……団子……もう一本……」
お光:
「……理解してないね」
静:
「まったくな」
お光:
「でも、静」
静:
「なんだ」
お光:
「あんた、ちょっと楽しそう」
静:
「気のせいだ」
お光:
「ふーん」
静:
「何だ、その顔は」
お光:
「別にー」
お光が去っていく。
静は由太の部屋を覗く。
由太は無防備に眠っている。
静:
「……天然の間者、か」
布団を掛け直してやる。
静:
「せめて私の見えるところで、引っ掻き回せ」
由太:
「……味噌汁……」
静:
「……」
静は思わず笑う。




