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王太子が暗殺されるまであと7日  作者: 星降る夜


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8 不思議な骨


 

 「犯人探しも大事だが狙われている人物も重要じゃないか?」

 「そ、そうよね。そっち側は任せたわ」


 私は心の中を見透かされているような気がして、ロヴィの後ろの本棚に目をそらした。私には必要ないのよ。


 「つまり、狙われている人物を僕が守るという事か……。なら誰か知る必要があるな」


 知る必要? 自分で考えるんでしょうね。聞かないでよ、私には。


 「参加者の名簿は手に入る?」


 急いで話題をそらす。


 「手に入らないこともないが……。ランスロットに言えばすぐだな。それよりも、君は誰だか知っているだろう。狙われているのが……」


 ロヴィはそう言うと私の目をのぞき込む。


 おっといけない。心眼の持ち主だった。


 心を読まれたら負けよ。私は思いっきりほほを膨らませて変顔を作った。


 錯乱ビーム発射!


 しばらく続けていると埒が明かないと思ったのか、ロヴィは参ったというように軽く両手を上げて降参のポーズをする。


 ……なんとか切り抜けたわ……。


 「……危険があるなら、僕も動くべきだろう。名簿は明日渡す」


 ロヴィは口角を上げると私から視線をそらした。


 「君がそこまでして守りたい人物は剣技大会の参加者か……」


 そう呟いていた。


 私は深く息をついた。


 あ~疲れた……。


 あの少年の手がベッドから滑り落ちた瞬間が脳裏から離れない。それを思い出すと胸がきゅっと痛くなった。


 「どうした。急に黙って」


 私は黙って首を振った。


 「しかし、君が言っていた祈祷は一か所だけとは限らないな」


 ロヴィは遠くを見るように視線を窓の外へやる。


 何か所もある? まさか……。


 祈祷が行われるまでにあと5日……。


 スカートのポケットから昨日拾った、正確には持ってきちゃった骨を出した。心なしかキラキラが少し増した気がする。


 「これは何の骨かわかる? お父様は直ぐにはわからないって言うんだけど」


 ロヴィが骨を手に取った瞬間、かすかに眉が寄った。


 指先が一度だけぴくりと震える。


 だが何事もなかったように机へ戻した。


 私は不思議に思いながら骨を手に取った。手の中にひんやりした触感が指に伝わる。


 私の手を見ながらロヴィが口を開いた。


 「……それは……。見たことがない」


 ロヴィの視線が骨に落ちたまま動かない。


 どうしたのかしら? 


 「何か変なの?」


 ロヴィは指先を少し見つめた。


 「……本当に、触っても何ともないのか?」


 ロヴィは自分の指先をスッとこすり合わせながら、訝しげに私を見た。


 何かしら?


 「大丈夫よ。少しひんやりとして、滑らかな感じがするぐらいだわ」

 「こう、微かな電流が走るみたいに……指先がピリッと痺れたりはしないのか?」

 「全然ないわ。ただの冷たい骨よ?」

 「見たことのない材質だ。透明な部分があって、まるでクリスタルのようにも見える……」


 ロヴィは少し考えるように腕を組んだ。


 「それはどこかに保管した方が良い。骨の種類はわからないが、大きさから大きな動物の一部だと考えられるが……」

 「ふ~ん。そうなの?大きな動物かぁ」

 「ここなら、骨の分類図もあるだろう。だがそれよりも古い文献を見る方が良いかもしれないな」


 古い文献……お父様の言っていたポコ族と関係しているのかしら。


 とにかく、ロヴィには明日までに名簿を持ってきてもらうことにした。


 「私はまだ調べ物があるから明日ね」


 私の言葉に、ロヴィは何か言いたそうにしていたけど、彼も席を立つと図書館を後にした。


 祈祷まであと5日。足音が迫ってくるような焦りに、心臓がトクトクと嫌な音を立てる。胸に手をやり焦る気持ちを落ち着かせると、ふと、思い出した。


 あっ、いけない。聞くの忘れたわ。


 急いで振り向いたけどロヴィの姿はもうどこにもなかった。


 肝心の王太子の顔がわからない……。夢で見たのは苦しんでいる姿で、顔ははっきりしなかった。

 

 明日、絶対に聞かなくちゃ。忘れないようにしないとね。考えなきゃいけないことが多すぎるわ。


 急ぎ足で家に帰り着いた頃には、日が傾いていた。


 家に帰るとマーサが泣きついてきた。


 「お嬢様、旦那様が今日もお部屋にこもりきりなんですよ。お身体に触ります」


 お父様のお部屋を覗くと、声を掛けるまでもなく顔を上げた。


 「んっ?ああ、リゼットか。もうすぐ出来るぞ。明日は試運転だ」


 ズレそうになる眼鏡を押し上げながらお父様が言う。


 「凄いわ。お父様はやっぱり天才だわ」


 私の言葉にお父様はまんざらでもなさそうにほほ笑んだ。


 「先に食べなさい。もう少しできりが良い」


 お父様の様子を見ながら、どうやら空気清浄機は5日後までには間に合いそうだわ、と胸をなでおろした。少しでも不安要素をなくしたかった。


 ベッドに入ると、骨を枕元に置いた。なくしたら大変だものね。部屋の明かりを消すと、窓から月の光が差し込んで、骨に当たってぼうっと光っている。手に取ってみれば透明のところが月の光を受けてキラキラと輝いていた。


 私はそっと骨を撫でた。もう骨になってしまっているけど、君はどんな姿だったんだろうか。


 撫でていると、手のひらがじんわり温かくなった。


 月明かりの中で、白く曇っていた部分が少しだけ透き通ったように見える。


 気のせいだろうか。


 ふと、前世の知識が頭をよぎる。この骨ってなんだか古代遺跡から発見された水晶のドクロみたいだわ。


 目を閉じれば、またあの少年の手がベッドから滑り落ちる夢を見そうで怖い。


 だけど、手の中の骨は不思議なほど温かかった。


 私は手の中の微かな光を強く握りしめ、絶対に同じ結末にはさせない、心に誓い目を閉じた。


 刻一刻とその日は近づいている。






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