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王太子が暗殺されるまであと7日  作者: 星降る夜


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7/21

7 誘導尋問


 石畳の階段を上がると、冷たい空気が頬を撫でた。


 吹き抜けのエントランスを抜けると大きなホールになっていて、高い天井まで本が並んでいる。奥には専門書ごとに部屋がわかれていた。


 紙とインクの匂いが混ざり合い、静けさが空気を支配していた。


 思ったより広いわ。ロヴィはどこにいるのかしら……。周りを見渡すと、向こう側の柱の陰に見覚えのある深緑色のマントが見えた。

 深緑色のマント、この前と同じね。ロヴィだわ。でも、1人なのかしら。周りを見てもこの間の護衛の姿が見えなかった。


 護衛の人はお手洗いかしら。


 私はロヴィに大きく手を振りながら小走りに近寄った。声を掛けようとした途端ロヴィは後ろを向いた。あれっ? 間違えた? 


 反対側に回り込んで顔を覗き込んだ。


 「ロヴィ?」


 ロヴィは私の手を掴むと柱の陰に回り込む。


 「いいかい、目立つことはダメだ。どの誰が見ているかもわからないからね」


 わかるわ。その通りよ。どこにスパイがいるか分からないのよね。思わず背筋が伸びた。


 入り口のカウンターで司書が働いているのが目に入った。こちらを気にしているかしら?


 私は大きくうなずいた。それからもう一度きょろきょろと辺りを見回す。


 「どうした?何か探し物か?」

 「違うの。護衛の人はいないの?」


 私が聞くと彼は面白くもなさそうに遠くに視線をやった。


 「ああ、彼は忙しいからね」


 ほんの一瞬だけ、言葉を選ぶように眉が動いた。


 確かに、私たち子どもとは違って騎士ともなれば忙しいのだろう。ちょっとがっかりだわ。カッコよかったのよね。


 がっかりしたのが顔に出ていたみたいでロヴィがいぶかしげに私を見ていた。


 「何かあるのか?」


 私は慌てて首を振る。心の中を覗かれるような気がした。いやだわ、見透かされているみたいで。


 「ロヴィ、いろいろ相談したいの」


 ロヴィは黙って頷くと歩きだした。私は急いでついていく。


 人の少ない部屋の奥の一角に座ると昨日の件を話し出した。


 「僕の方は毒の成分は解析できた。即効性のあるものではなく、どちらかというと精神をやられるタイプだな」

 「幻影とか悪夢を見るとか?」


 ロヴィは少し驚いたように目を見開いた。


 「えっと、知っているわけじゃないの。ただ、私の調べた祈祷と結びつくとしたらそういう物かなってね」

 「君の方で分かったことは?」

 「えっとね……」私はお父様から聞いた事をロヴィに説明した。


 聞き終わるとロヴィは腕を組んで考えこんだ。


 「つまり、誰かが狙われている事は間違いなさそうだ。そして君はそれを知っている。そうだね」


 そうよ、私は知っている。でもそれを誰だかは言えない。言ってしまえば、その人が危険になるかもしれないもの。どうしよう。


 「大切な人なの」


 私はそれだけ言うとうつむいた。もう協力は頼めないかもしれない。でも黙っていてほしかった。


 「君が、その人の名前を言わないのは、僕が味方か分からないからだろう」


 ロヴィは私の手を取ると、真っ直ぐに私の目をのぞき込む。窓から差し込む午後の光を受ければ、底知れない深い青い瞳に見えた。いつもは灰がかった青緑色なのに。光の加減かしら……不思議ね。


 ――今はそれよりも……


 「まだ全部は話せないわ」

 「どうして?」

 「だって、あなたが味方だって保証はないもの」

 「でも、君は、僕の護衛に何か頼むつもりだった。違うか?」


 静かに問われて、何も言えない。この人、私のことはお見通し?

 明後日までに動かなきゃいけないのよ……!


 私は視線をそらした。絶対に人の心を読むタイプだわ。


 そっとロヴィに取られた手をひっこめる。ウソ発見器には引っかからないわ。


 「明後日の剣技大会に出るか聞きたかったの」


 本当の事よ。


 「ああ、参加する」

 「ロヴィが?」


 思わず細い腕に目がいった。


 「僕だけじゃない」


 そう言いながらロヴィは腕を組んだ。目に入るのは細い腕。私はロヴィの腕をぎゅっとつまんだ。


 「痛い。何のつもりだ」


 ロヴィは腕をひっこめた。


 「あっ、ごめんなさい。でも、この細腕じゃ、折れちゃうわ。大丈夫なの?」

 「折れるわけないだろう」


 ロヴィは少し怒ったみたいだった。そうよね、このくらいのお年頃はプライドが高いのよ。特にロヴィみたいなお坊ちゃま君はね。悪いことを言っちゃったわ。


 ロヴィはむっとした顔のまま、それ以上何も言わなかった。


 「心配だったの。それに、昨日の毒はその剣技大会に持ち込まれるのよ」

 「剣技大会に? どういうことだ」

 「実はね、剣に塗るの」

 「毒をか?」


 私は頷くと先を続けた。


 「相手を傷つければ、毒が体に入るでしょう?」


  ロヴィは少し考えるように私を見た。


 「その情報は、どこからだ」

 「き、聞いたのよ」

 「誰に」


 ロヴィの瞳には有無を言わせない光が宿っていた。


 夢で聞いたと言って信じてくれるのかしら……。思わず目をそらした。


 ロヴィはしばらく私を見ていたが、やがて小さく息をついた。


 「ランダムに狙うなどありえないな。ターゲットを絞るはずだ」


 鋭いわ。確かにそうなの。でもなんて言おう……。


 「高貴な人を狙うんじゃないかしら……。たぶん」

 「刺客が送り込まれるっていう事か。その可能性はあるが、しかし……」


 ロヴィが言いよどむ。そう、確かに刺客にしては、あの毒では物足りないと思う。効果が低いのよ。ロヴィは、本当の狙いが何なのか考えているのね。


 「ねぇ、参加者の名簿はあるの? そこからわからないかしら」

 「君が探すのは被害者か、それとも犯人かな」

 「もちろん犯人よ!」


 ロヴィは小さく頷いた。


 「ゆ、誘導尋問には引っかからないわ」


 ロヴィは面白そうに口角を上げた。

 


 

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