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王太子が暗殺されるまであと7日  作者: 星降る夜


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6 呪いと骨


 夕飯を終えるなり、お父様の執務室の扉を叩いた。


 「お父様、見て欲しいものがあるの」


 お部屋ではお父様が今日購入したばかりの魔道具を眺めていた。


 「おや、この部屋に来るなんて珍しいね。気味が悪いと言っていなかったかい?」

 

 私はポケットの上をポンポンと叩いた。


 「大人になったのよ」


 そう言うとハンカチに包んだ灰と、骨をスカートのポケットから出した。


 「今日ね、拾ったの。これ何か分かる?」


 お父様はいぶかしげに片眼鏡を顔から外した。


 「拾った?この灰と骨をかい?」

 「なんか袋みたいなものに入っていて……。あっ、でもぼろぼろの袋だったから。捨ててあったんだと思うの」


 お父様は用心深く片眼鏡を付けるとゆっくりと灰を見る。


 「ほ、ほら……旅人が落としたのかもしれないし……!」

 「灰と骨か……」


 お父様はしばらく考え込んだ。


 「これは、ポコ族が占いに使う物と似ているな。他国からの旅人も多いから使用済みを捨てたのも考えられるが……」


 灰を手に取ると臭いを嗅いだり、水に溶かしたり、光にかざしていた。本棚から何冊もの本を出してきている。お父様の興味を引いたことは間違いがなかった。


 私は部屋の隅でそれを静かに見ていた。明日はちゃんとロヴィに報告できるかしら。時間は刻々と迫ってくる。


 ノックの音がして顔を上げるとマーサが部屋に入ってきた。


 「旦那様。また本に夢中になっておられるんですか」


 マーサは用意してきた水差しをサイドボードに置く。


 「旦那様。お嬢様はもうお休みにならないと」


 マーサが呆れたように私達を見た。


 「ああ、すまない。リゼット、これは預かってもいいかい?」


 私は大きくうなずいた。


 「明日の朝また来てもいい?」

 「わかった。それまでにある程度調べておこう」


 私は灰と骨をお父様に預けると、ベッドの中でこれからの計画を練った。


 明日はロヴィに今日の結果を確認しなきゃ。それに剣技大会にどう忍び込むか決めないといけないわ。


 ――そうだわ、ロヴィなら剣技大会に詳しいかもしれないわ。


 ——あの護衛の騎士は剣が得意そうだったもの。また会えたら……いけない。

 パンパンと両手で頬を叩いた。


 これから暗殺を阻止しなきゃいけないのに、なぜか能天気なほうに思考が行ってしまう。いけないいけない。


 明日は頑張るぞ!



      ♢      ♢      ♢




  次の日の朝になっても、お父様は執務室から出てこなかった。


 マーサが呆れたようにため息をつく。「お嬢様の教育に良くありませんね」と呟いていた。


 半分は私のせいだ。見に行かなきゃ。


 何事もなかったかのように食事を済ますとさっさと引き上げることにした。


 マーサのお小言が始まる前に。ここに長居は無用だわ。


 「お父様にサンドイッチを持っていくわね」


 お父様の部屋に温かい紅茶とサンドイッチを持っていくと、お父様は夢中で分厚い本を読んでいた。


 「お父様、お食事をこちらのテーブルに置きますね」

 「ああ、すまない」


 お父様は本から顔も上げずに頷く。こんな時は何を言っても聞こえていないわね。見れば昨日の骨が机の端に置きっぱなしだった。これが何か分かったのかしら……。


 手に持ってみる。全体に白く重たい感じの骨だけど、キラキラと光る白いところがところどころ残っていた。


 「リゼット、それは危険だ。触るんじゃない」


 お父様は私が手に持っていた骨を取り上げた。


 「危険なの?」

 「ああ。……この灰はポコ族の祈祷に使われるものだ。火にくべると特殊な煙が出る。祈祷師はそれで集中を高める」

 「骨は?」


 お父様は少し間を置いた。


 「骨は……呪いに使う。強い力を持つ者の骨ほど、相手を強く蝕む。最悪、命を落とすこともある」


 私は骨をじっと見た。光を受けて輝くところがある。綺麗なのに、怖い。


 「捨ててあったのに?」

 「使用済みかもしれん。だがまだ何の骨か特定できていない。だから触るな」


 お父様の言葉に頷いた。


 「ねぇお父様、最近ほこりが多くてくしゃみが出るの」

 「ん?」


 お父様がちらりと顔を上げた。


 「空気って、洗えないかしら」

 「空気を……洗う?」


 今度はしっかり本から目が離れた。


 「空気の流れを制御する魔道具は、まだ研究段階でね……」

 「ほこりや嫌な臭いを全部きれいにしてしまう魔道具よ。お部屋の空気がすっかりきれいになるの」

 「面白い発想だな」


 お父様は腕を組んで考え込み始めた。


 「原理としては……空気の流れを制御して……」

 「お父様、作れる? 」

 

 お父様は紙に計算式を書き出して、もう私の言葉は聞こえていないようだった。


 机の端の骨が、目に入った。

 呪いに使う。最悪、命を落とすこともある。さっきの言葉が耳に残っていた。


 これが危険? 


 よく見れば少し透明なところは水晶みたいだ。真っ白じゃないのね。


 夢で見た祈祷がよみがえる。床に転がっていた骨……。


 ——でも、これが夢で見た祈祷に使われた物なら、必要だわ。


 気が付けば、指先は骨に触れていた。


 ポケットに……。


 私は少し膨らんだポケットに手を添えて、そっと部屋を後にした。


 図書館の待ち合わせ、遅れないようにいかなきゃ。



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