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王太子が暗殺されるまであと7日  作者: 星降る夜


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21/23

21 月が隠れた夜


 アルベルトに言いたいことはたくさんあったけれど、今はそんなことを気にしている場合じゃないわ。

 

 「リゼット様、急ぎましょう」


 アルベルトの言葉に頷く。家から少し離れたところに停まっていた小さな馬車に乗ると王宮を目指した。今宵月は隠れ、辺りは真っ暗な静寂に包まれていた。


 つい数日前まで祭りの熱気に包まれていたとは思えないほど、王都は静まり返っていた。


 「まずは隣接している騎士団の宿舎の方から王宮へ入ります」と、アルベルトから説明を受ける。


 「どこで誰が見ているともわかりませんから」


 緑の瞳に鋭い光を宿したアルベルトが私に深緑のマントを手渡してきた。


 「馬車を降りるときはこれを着てください」


 そうよね、忍び込むんだもの。変装しなくちゃ。


 「ねぇ、アルベルトさん、王太子殿下の特徴って知っている?」


 私が聞くと、アルベルトは「特徴ですか……」と呟きながら、しばし腕を組んだ。


 「目ですね。あの目で睨まれたら、縮み上がります。目で人を殺せるんじゃないかと……」


 目で人を殺す? 頭の中には赤く光る眼からビームで人を殺す映像が浮かんだ。ないわ……。


 ……でも……目? なのかしら。


 私はマントを深く被ると、アルベルトの案内で王宮の門をくぐった。見回りの騎士たちが時折アルベルトに声を掛けてきたが、彼はそのたびに「団長のお嬢さんです」と自然に話を流していく。


 騎士たちは「ご苦労さん」なんて言って、あっさり通り過ぎていった。



 私が言うのもなんですけど、セキュリティー甘いわ。簡単に潜り込めるじゃない!


 とにかく、今日は見て見ぬふり。そんなことより大事なことがあるのよ。


 庭園を横切った先が、王宮の建物だそうだ。石造りの通路を抜けると、足元は豪華なじゅうたんへと変わった。柱や天井には見事な装飾が施され、思わず見入ってしまう。初めての王宮なんですもの。


 「……リゼット様?」


 前を行くアルベルトが歩みを止め振り返った。


 「あっ、ごめんなさい。見とれちゃって」

 「俺から離れないでください。迷子になります」


 そう言うと私の手を引いた。


 すみません。おのぼりさんで……。


 長い廊下を曲がり、階段を上がったり中庭を横切ったりしていくと、また急に雰囲気が変わる。さっきまでの派手な豪華さから、上品な豪華さへと変わった。


 その建物に入ろうとしたところでアルベルトが立ち止まった。柱の陰から人が現れた。


 「ここから先は、僕が案内しよう」

 「ロヴィ?」


 私と同じ深緑色のマントに身を包んだロヴィがそこに立っていた。


 アルベルトの顔を見上げると、彼は軽く頷いた。


 アルベルトは私の手を放し一歩下がると、今度はロヴィが私の手を取った。


 「どこへ行くのかなお嬢さん?」


 目は笑っていなかった。


 ああ、ロヴィにはまだ言っていなかったんだわ。これからすることをね。


 どうしよう……。一瞬迷ったけど、もうそんなことを言っている時間はなかった。それにもう、ここまで来てしまったんだ。王宮の荘厳な雰囲気の中、私は覚悟を決めてロヴィに言った。


 「ええと……王太子殿下の寝室まで」


 ロヴィはしばし動きを止めた。


 「んっ? 聞き間違いかな? 今、誰かの寝室と聞こえたが……」


 ロヴィは俯きながら、「耳が勝手に都合のいいように解釈するなんてことは……いや、頭が勝手に変換したのか……」なんてぶつぶつ言っている。

 

 どうしたのかしら? まさか、阻止するつもりじゃないわよね。


 「王太子殿下の寝室です」


 私ははっきりと、もう一度、大きな声で言うとロヴィが慌てて私の口に手を添えた。


 「声が大きい。アルベルト、僕は聞いていない」

 「それは後ほどご説明をします」


 アルベルトが慌てたように取り繕った。


 私はロヴィの手を外すと小声でささやいた。


 「案内できるの?」


 ロヴィは大きく息を一つ吐く。


 「ああ、しかし何故、今まで言わなかった」


 普通は、言えないでしょう。いきなり、『王太子の寝室に夜中に行きたい』なんて言えないと思うわ。怪しい者以外の何者でもないじゃない。


 「誰かに言えば、天に高らかに宣言したのと同じになるから」


 我ながら上手くごまかしたつもりだ。


 「つまり、敵に知れるということを恐れたと」


 ロヴィは鋭い。私は言葉を濁したのに真意を掴んでいる。ごまかせる人じゃなかった。


 「今夜、王太子殿下が狙われるの」


 仕方なしに、本当のことを言った。ロヴィは驚いたように目を見開く。


 「君が、必死になって助けようとしていたのは王太子殿下なのか?」

 「そうよ、大切な人なの」

 「君と、王太子殿下はどこで知り合ったんだ?」


 ロヴィは考えるように眉根を寄せた。ロヴィが考えたってわからないと思うわ。


 「知り合いじゃないわ」

 「知り合いじゃない? じゃあなぜ?」


 食い気味で言うロヴィが不思議だった。そんなことどうでも良いじゃない。


 「言ったでしょう。大切な人なのよ」

 「君にとって? 知りもしないのに」


 知り合いじゃないわ。でもそれが何だって言うの? 知らなくても、知られていなくても、大切な人に変わりはないもの。


 「違うわ。この国にとって大切なのよ」

 「君が命を懸けるほどにか?」

 「そうよ」


 私は真っ直ぐにロヴィの瞳を見つめ返す。こんなところで押し問答をしている暇はないのよ。


 ロヴィは一瞬、息をのむ。


 「……わかった」


 少しの沈黙の後、ロヴィは短く言うと、私の手を取り力強く歩き出した。






 


 いつも読んで頂きありがとうございます。物語もいよいよクライマックスです。

 次の投稿は明後日金曜日です。よろしくお願いいたします。

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